僕らはまた今日を記憶に変えて


「今日ここに全員揃っていることが本当に嬉しい」
この日、何人ものメンバーの口から繰り返し発せられた言葉です。

流行り物として消費されたアジカン。
ロック・アイコンという重荷を負い、約10年間活動を休止したエルレ。
大きなブレイクポイントには恵まれなかったテナー。

この15年、3バンドとも決して平らではない道のりを歩んできました。

そしてそれは観客席の多くも同じだったのではないでしょうか。

ちょっと自分の話になっちゃいますけど、ロスジェネってゼロ年代に20代後半から30代前半だったんです。
(他人の苦労話なんて興味ないと思うんでこの15行ぐらいはササッと読み飛ばしてください)

就職氷河期をなんとか潜り抜け、30過ぎてやっと自分のやってきたことに手応えとか感じられるようになって。ささやかながら自信もついてきて。

そんな時に起きたのが東日本大震災でした。

実際に命を落とされた方、ご家族やお知り合いを亡くされた方、住むところや仕事を失った方、そして今なおその爪痕と闘っておられる方々とは比べるべくもありません。それでも(おこがましいのですが)やはりあの出来事は傷を残しました。

日常が一瞬で消え去ったあの日。
灯りの消えた街。常に災害情報が表示されたTV。そして鳴り止んだ音楽。アジカンも『マジックディスク』ツアーの終盤を中止しました。

明日が今日の続きとは限らない現実を突きつけられ、掴んだように思えたものが全部幻に見えてしまい。
そんな異常な状況の中、それでも毎日会社へ向かい仕事をする日々が続いて。

心が潰されそうでした。

それでも人は強いものです。望むと望まざるとに関わらずいつしか順応して、ゴッチの言葉を借りれば「生き抜いて」きました。

そしてこの日。

演じる彼らも、聴いている僕らも色々あって変わってしまったけれど、
音楽だけはあの頃と同じように流れていました。

それがただ嬉しかった。

なんて喜ばしくて、なんて得難いことか。


『風の日』のイントロで涙が出ました。

雨の日も晴れの日も寒い日も雪の日もあったけれど、やがて来る風の日を信じて待つ力を与えてくれた曲です。

そして『虹』。
元々15年前のNANA-IROツアーでの出来事をきっかけに作られたというこの曲。
最初に引用したゴッチの言葉と歌詞がリンクしています。

 積み重ねた 思い出とか
 音を立てて崩れたって
 僕らはまた 今日を記憶に変えてゆける

もうなんか感動的過ぎて鳥肌過ぎて、ここまで来ると涙もどっか行っちゃって笑、ただただ清々しい気持ちで思いっきり歌っていました。

大切なものをいっぱい失くしてきたけれど、それでもこうして今ここにいることの誇らしさ。

そんなことを感じた夜でした。


この日、細美さんが何度か客席に語りかけた「ライブハウスに帰ろうぜ」という言葉。
「まだまだいけんだろ」というメッセージのような気がします。

エネルギーに満ち溢れていたあの頃のようにはいかないし、優しくなったとか丸くなったと言われる自分に寂しさを感じたりもするけれど。

まだまだやれる。

たぶん。

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