deux補正2
2019年10月、聖地・神宮球場にほど近い日本青年館ホールで行われた『フラガール』、いつものごとく2回観劇してきましたのでレポートします。

過去ではなく今の物語


あまりにも有名な作品ですが、一応公式のストーリーを載せておきます。

ストーリー

昭和40年、福島県いわき市、かつて炭鉱の町として栄えた石炭の町も、石油という新しい燃料の台頭によって斜陽産業と化していた。
人員削減のため毎月リストラが発表され、何千人もの労働者のクビがきられていく。そんな状況の中で、町おこしの新事業として常磐ハワイアンセンター建設の話が持ち上がる。
常磐の地の温泉を利用して、ハワイの雰囲気を持ったリゾート施設を作ろうというのだ。
そしてハワイアンダンスのショーで盛り上げたいという計画だ。もちろん労働者たちは反対の声をあげた。「なにがハワイだ!」

この町に生まれ育った早苗(太田奈緒・福島雪菜)は、毎日泥まみれの生活から抜け出すチャンスではないかと考えて友達の紀美子(井上小百合)を誘ってダンサー募集に応募することを決意する。しかし、集まった女の子達は「裸躍りさせるつもりか?」と、ほとんどの者が消えてゆき、残ったのは、紀美子と早苗、そして父親に無理に連れてこられた太った娘の小百合(富田望生)と子連れの事務員(伊藤修子)の4人だけ、本当にフラダンスのチームなど作れるのか不安になる。

そんな田舎町にハワイアンセンターの企画部長吉本(山崎銀之丞)は元SKDのダンサー平山まどか(矢島舞美)を連れてくる。紀美子たちは、サングラスをかけ田舎者を下に見るまどかに、最初は不信感を持つが、その卓越したダンスの技術とその魅力に、やがて引き込まれていく。
炭鉱の組合員の反対運動が激しくなる中で、紀美子は炭鉱で働く母親千代(有森也実)に反対されながらも、家を出てフラガールになることを決意する。

「復興は少女たちの笑顔が作る!」
そんなフラガールたちの奮闘を描いた物語である

公式サイトより引用)

映画『フラガール』は言わずと知れた傑作。2006年に公開され、キネマ旬報ベストテン1位、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。紀美子役を演じた蒼井優さんも最優秀助演女優賞を獲得しています。

あれほど有名な映画をどう舞台化するのか。

演出の岡村俊一さんは自身のTwitterで「今回の『フラガール』は、映画の印象を全く変えること無く舞台用に再構成した」と語っていましたが、私の感想はちょっと違います。

映画版は過去の物語であるのに対し、舞台版は今の物語。

映画では開始からずっとセピア色のフィルタをかけたようなくすんだ画面で物語が展開します。(これがラストのダンスショーのシーンで一気に鮮やかな色調へと変化しそのコントラストが強烈なインパクトを与えるわけですが)
そこでは斜陽産業である炭鉱の姿が「もう終わってしまったもの」として描かれています。現在の視点から語られる過去の物語という印象です。

それに対し舞台版。
時代背景に沿った衣装や小道具であるため舞台上の色味は地味ですが、色のイメージは照明も含めセピアではなくオレンジ。過去ではなく、夕暮れ=黄昏です。ノスタルジックではありますがそこに生きる人々の息づかいが感じられます。

そして描かれる炭鉱の姿は「今まさに終わろうとしているもの」

登場する人物の誰もが、目の前にあるその終焉と向き合っていました。

時代の変化に気づきつつもそれを受け入れられない者。
終焉を受け入れつつもそれに殉ずることを潔しとする者。
変化を受け入れて新たな役割を探す者。

その葛藤や苦悩、あがく姿や呆然と立ち尽くす姿は現在進行形のリアルなものでした。

だからこそ、この舞台は観る者に問いかけてきます。

今そこにある終焉に、自分はどう向き合うのか。


女は強えなァ


メインどころの女性陣について書きます。

矢島舞美さんは美。とにかく美。
そして最初に紀美子たちの前で踊るフラの説得力たるや。
あるシーンでの涙を流しながらの演技は観る者の胸を締めつけるものでした。

富田望生さん。既に多くの映画やドラマに出演しその実力は証明済み。映画『あさひなぐ』で乃木坂メンバーとも共演しています。若い(公演時点でなんとまだ19歳!)実力派ぽっちゃり女優として完全に抜け出た存在です。

いわき市出身の彼女にとって『フラガール』特別な作品であり、相当な気合でこの舞台に臨んだと語っています。
まず驚いたのはダンスのキレ。しかし何と言っても彼女の真骨頂は傷ついた心とそこから一歩ずつ踏み出す勇気の表現でしょう。一度殻を破ればあとはオールライトというよくあるパターンではなく、勇気を出してもまたすぐに折れそうになって、そこからまた己を奮い立たせて…というプロセスが実に細やかに演じられていました。

早苗役はWキャストでしたが、幸い両方観ることができました。
ふたりの解釈がちょっと違っているのが興味深かったです。
福島雪菜さんは素直で元気で情熱的。「どこにいてもその場所でひたむきに頑張りそうな」早苗。それに対し激情を内に秘め「いつかどこかで何かをやらかしそうな」早苗の太田奈緒さん。

特に太田さんは迫力ある憑依型の演技で、舞台経験が少ないというのがにわかには信じがたいほどの貫録でした。

伊藤修子さんは、いるだけで場が緩む(誉めてます)特別な存在。なんかどこまでが地でどこからが演技かよくわからない笑

有森也実さん。ロスジェネ世代にとっては言わずと知れた『東京ラブストーリー』の関口さとみですよね。男が最後に選ぶのははジェットコースターみたいな赤名リカじゃなく陽だまりのような女性なんだということは彼女から教わりました笑

その有森さんが肝っ玉母ちゃんを演じている姿を観るとは感慨深いものがあります。
父親を亡くした家庭にあって自分がブレたら家族がバラバラになってしまうという強い信念と、一心不乱に踊る紀美子の姿を見た時に感じた娘の夢を全力で応援したいという母親の情と。その両方とも千代にとっては真実なのだと感じさせました。


本当にキャストの皆さん、それぞれが印象的でした。

自分と自分の大切な人たちが生き延びるためだったら何でもやる。そんな覚悟を決めた時の女性の強さ。

ひとりひとりが見事にそれを演じ切っていたと思います。