deux補正2
蒼井優の代表作といっても過言ではないこの作品。その鮮烈な印象が残る役を井上小百合はどう演じたのでしょうか。

成長するってこと


福岡での『リトル・ウィメン』の大千秋楽からわずか12日後というスケジュール。
そして卒業を発表した直後の主演舞台。
様々な要素が絡み合い、きっとプレッシャーも大きかったことでしょう。

そんな中でさゆが見せたのは2時間の舞台の間に変化していく紀美子の「成長する姿」でした。

本人もインタビューで言っていた通り、紀美子とさゆは似ています。

最初は本当に何もないただの女の子だった紀美子。親友に誘われたというただそれだけの理由でフラを始めます。それがまどか先生のダンスを見て憧れを見つけて。早苗の思いを受け継いで、炭鉱が傾いていくのを肌で感じて大切な人たちを守りたいと願って。
どんどん色んなものを背負い続けて普通なら身動きが取れなくなってしまうのに、彼女はそれを強さに変えていきました。

そこが似てるなあと。

名もなき若者だった井上小百合。役者を目指すもオーディションで「女優よりアイドル向きの顔」と言われて最初は渋々アイドルになりますが、そこで初めてのファンができます。やがて乃木坂で大切な場所と仲間を見つけて、色んな人の思いを受け取りながら強くなって、今こうしてひとりの女優として輝いている。
そんなこれまでの歩みが紀美子の成長にオーバーラップします。

そしてラストのダンスショー。
純白の衣装を着てステージの中央に進み出る紀美子。
ただの田舎娘だった彼女がスターになるその瞬間、そしてこの物語のすべてが昇華する瞬間に、それまでずっと「もっさい顔」をしていた井上小百合が輝くばかりの笑顔を見せます。

もちろん衣装やメイクの効果もあるでしょう。でも『リトル・ウィメン』で彩乃かなみさんに感じたのと同種の「華やかさの出し入れ」をしていると感じました。

立派な主演女優でした。


「こんなときにバカみたいに笑えるわけねえべ!」


今回の『フラガール』開幕直前。
さゆ推しの方ならご存じであろう、ある出来事がありました。

さゆが同情されるのが嫌いなことも、舞台上の自分を役ではなく「井上小百合」として見られることが好きじゃないのもわかっています。

でも、早苗との別れ、先生との別れ、そして「プロだったらどんな時でも笑うの!」のシーンを観ていたら…「さゆは今どんな気持ちでこれを演じているんだろう」と考えてしまって、どうしても涙が止められませんでした。

特に駅で先生を見送るシーンでのダンス、凄まじかったです。
さゆの身体から、指先から愛が溢れていて。

想いって、目に見えるんだ。
そう感じました。


以前は憑依型と称されることの多かったさゆの演技。しかしインタビューなどを見るとむしろ逆で、自分とその役柄の共通点を見出し「だから美美子は私!」「エルザは私!」「月野うさぎは私!」というアプローチをするそうです。

そのためでしょうか。全然違う役柄をすべて見事に演じ分けているのに、それでも役のどこかにいつも彼女の生き様が透けて見える。

本人が望むと望まざるとにかかわらず、井上小百合とはそういう役者なんだと思います。
そしてそれこそが彼女の演技の大きな魅力なのではないでしょうか。

だからこそ今回の状況の中で舞台に立つさゆの姿はあまりにも切なくて、危うくて、なのにとても逞しくて。

感動なんて言葉じゃとても伝えきれない、重たくて強いものが心に残りました。