2019年は国産クロノグラフのアニバーサリーイヤー


2019年12月7日にどちらも限定1,000本で同時発売された、国産クロノグラフのアニバーサリーモデルふたつ。

SBEC005


こちらのSBEC005は「国産自動巻きクロノ50周年記念」。

国産どころか世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントではないかと言われているキャリバー6139から50年。しかし実はこのモデルのデザインはその後に開発されアンティーク市場でも高い人気を誇る6138-8000通称「61パンダ」に範を取っています。
これ、以前に「いつか手に入れたい時計」と書いたゼニスの「A384リバイバル」に似てますね。ブラックのチャプターリングにパンダダイヤル(こっちはホワイトではなくシルバーですが)、そしてクロノ針の差し色。

ダイヤル上の情報量が多いクロノグラフにおいて、視認性を確保しようとするとこうなるのでしょうか。クロノグラフの黎明期において洋の東西を問わず似たようなメリハリの効いたデザインになったというのは興味深い一致ですね。

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とはいえこちらのモデルはいわゆる現代デザイン。正直、タテ目の2カウンタークロノであるオリジナルとはだいぶイメージが違いますし、実物の印象としては現代的であまりクラシックな感じはしません。

でもこれは凄くいい。

ラグから横に張り出した美しいケース形状。にもかかわらず横幅41mmに収めたサイズ感(オリジナルは40mmのようです)。

すりばち状のチャプターリングに印字されたタキメーターと3カウンターによるギュッと凝縮感のあるダイヤル。かなり優れたデザインだと思います。



ブレスも安っぽくない。よく酷評されるプロスペックスのブレスよりむしろグランドセイコーに近いですね。ダイヤルからケース、ブレスまで仕上げの質感はかなり高く、実際に腕に乗せると非常に魅力のある時計です。

パワーリザーブ45時間の8R48ムーブメント、クラシカルなボックス型(ベゼルから盛り上がった形状)サファイアガラス、10気圧防水、そして裏蓋スケルトンまでは下のSARK015と共通の仕様になっています。

SARK015


SARK015は「国産初クロノ(=クラウン ワンプッシュクロノ)55周年記念」。
そのデザインコードを踏襲しつつ3カウンタークロノ化したモデル。


前の記事では同じ「クラウン ワンプッシュクロノ」のデザインをオマージュした3針モデルについて書きましたが、こちらは3針ではなくちゃんとクロノグラフです笑


3針モデルの記事で特徴として挙げたのは「オールドファッションで素敵な顔」「ダイヤル上の同心円」「細かい目盛りと秒印字が醸す計測機器感」「細めのベゼル」。これらの要素はすべてこちらのモデルにも存在しています。
ちなみにサイズが違うので3針モデルとのパーツ共有はしていない模様。

そのサイズは厚さ15.3 ㎜、横42.3 ㎜、縦49.3 ㎜。3針モデル同様、ちと大きい。

上のSBEC005より大きいのはいかがなものかと。
まあ同じムーブメントですから当然インダイヤルの位置は一緒。その外に配置しなければならないデザイン要素として、こちらの方が回転ベゼルもある分大きくなっちゃったんでしょうね。インダイヤルの直径を調整してどうにかできなかったんですかね。

こちらも全体に良好な仕上げでラグとか非常にいいのですが、SBEC005と比べるとそもそもステンレス部分の面積が小さいのであまり目立たないのが残念かな。

ブランディングと価格設定


どちらも時計自体は魅力的。

ただ例によって言いたいことはあります笑

そもそも「プレザージュ」「プロスペックス」にする必要ってあったんでしょうか。

個人的にはプレザージュって若いサラリーマンが初めて買う機械式時計のイメージです。
漆ダイヤルのSARW013やSARX029の印象が強いせいだと思いますが、高価なモデルでも15万くらいの感覚。

その認識からするとSARK015の385,000円(税込、以下同じ)という値段はいかにも高い。
数年前に出たプレザージュのクロノが定価20万超だった時ですら「高い」と感じましたし。

「クラウン」じゃいけなかったんですかね。その方がむしろ特別感があるのに。
(デザインオマージュのSARX069/071/073も、もちろんクラウンの方がいい)

同じくSBEC005もプロスペックスじゃなく「スピードタイマー」にすれば良かったのに。

どうせ限定モデルですぐにカタログ落ちするんだし笑

海外ではプレザージュというブランド自体に価値があるんでしょうかね。

そして価格。

定価はSBEC005は418,000円、SARK015が385,000円。
そして実勢価格は流通限限定モデルのため値引きはなしで定価と同じ。実質価格はポイント10倍想定でそれぞれ376,200円と346,500円です。

この35万から45万で買えるクロノグラフって、定価ではなく新品実勢価格同士での比較をするとなかなかの強力メンバーが揃っているんです(並行品であれば、ですが)。
(以下の価格は記事作成日、某有名並行店の楽天市場店価格です)
「スピードマスター プロフェショナル」(422,150円~)に「カレラ ホイヤー02」(391,250円~)。スピマスなら「スピードマスター38 コーアクシャル」(384,170円~)という小径のモデルもあります。

要するに40万出せばオメガとタグ・ホイヤーのフラッグシップが買えちゃうわけです。
個人的にはこの価格帯のクロノグラフで選ぶならチューダーの「ブラックベイクロノ」(399,800円~)とかタグ・ホイヤーの「オータヴィア」(調査時点で新品在庫なし)が好きですね。

セイコーさんはオメガとタグ・ホイヤーのフラッグシップが相手ってわかってます?
本気でスピマスやカレラと同じ価格帯で売れると思ったんですかね。

確かに外装のクオリティはこのあたりと比較しても引けを取らない、というか正直勝っている部分もあるでしょう。

でも、ライバルのネームバリューやブランド性、定価との差額から感じるお買い得感(これ結構大事!)なども含めると、相当分が悪い勝負のような気がします。

セイコーの価格戦略は誰もが正規新品を買うという、現実とは違う世界を見ているように思えてなりません。

これ、流通限定じゃなく2割引きで売ればよかったのに。

それならSBECは実勢価格334,400円、ポイント10倍想定で実質価格300,960円。
SARKは実勢価格が300,800円、実質価格270,720円。
前者は実質、後者は実勢でほぼ30万になります。これでだいぶ購入のハードルが下がりますよね。「ギリ30万ならなんとか…」というユーザーに訴求できると思います。

この価格帯だとライバルからオメガが消え、タグ・ホイヤーではカレラのキャリバー16搭載モデル「Ref.CBK2110」(288,250円)や「リンク クロノグラフ」(339,750円)。あとはSinnの「103」(284,260円)あたりになりますね。
個人的には40万って、完全復刻だったら多くのユーザーが迷わず(はちょっと言い過ぎですね)払える値段だと思います。

かつてのグランドセイコー復刻、SBGW033やSBGW047。そしてアンダー40万ですがファーストダイバーSBDX019のような「本気の復刻」。

どれも現在ではプレミアム価格で取り引きされているモデルです。

今回の2モデルは現代デザインなのですから歴史的価値でのプラスアルファがない。
であればこの値段はちょっと強気すぎるのではないでしょうか。

並行品や中古含め、無限と思えるほどの拡がりがある腕時計市場において「この1本を買おう」と思わせる。

考えてみれば大変なことです。

偉そうな言い方になってしまいますが、セイコーさんはせっかくいい時計を出しているのですからビジネス的に成功してほしい。そしてインバウンド顧客と既存セイコーマニアだけを相手にするのではなく、もっと多くの日本人を時計沼に突き落としてほしい笑

だからこそもう少し価格戦略でユーザーの目線に立ってほしいです。