ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

タグ:レキシアター

deux補正2

強くない井上小百合という新境地


さゆは苦悩していました。

稽古中には「毎日自分のできなさにため息が止まらない」と言っていたこともあります。

彼女が演じたくノ一さんはメインキャストではありません。
今までさゆが演じてきたのはほとんどヒロインかヒロイン対抗。それに比べれば出番も台詞も、そして物語への関与度合いも少ないです。

しかも初めて演じる「凡人」。
恐らく、だからこそ難しかったのでしょう。

彼女が多く演じてきたのは、強烈な信念と一種のクレイジーさを持つ役でした。

『帝一の國』美美子ちゃん、『すべての犬は天国へ行く』エルザさん、『墓場、女子高生』にっしー、『夜曲』サヨちゃん、『若様組まいる』志奈子さん、『じょしらく』きぐちゃん&まりぃさん、『あさひなぐ』将子ちゃん、そしてもちろん『セーラームーン』の月野うさぎも。

一見か弱く見えるキャラクターがここぞの場面で見せる凄味。
これまで井上小百合は見事にそれを表現してきました。得意中の得意、と言っていいかもしれません。

しかし今回のくノ一さんはちょっと違います。
強烈な信念や行動原理、言い換えればモチベーションがないのです。

人生を変えようとする確固たる目的意識を持った周囲のクレイジーな人々に翻弄されながらも、職業倫理と仲間への愛着だけを武器に懸命に自分の役割を果たそうとする常識人です。

そんな当たり前の人間=凡人が、人生賭けちゃってるクレイジーな連中に太刀打ちできるはずもありません。「レキシーランドきっての手練れ」と評されていたくノ一さんですが、ヨシツネの前になす術もなく敗れ去ります。

強くない役。それをさゆが演じることはすごく新鮮でした。

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凡人にだってプライドがあるんだ


さゆ自身、自分のことを「努力しか手札がない」と評しています。

そんな凡人の自分が舞台の上で凡人を演じる。ましてや凡人であるゆえに敗れ去る役なのです。

それはこれまでに経験したことのない苦しみだったことでしょう。

そして彼女がたどり着いたのは、凡人の悲哀と矜持が共存した演技でした。

自らの命運を、選ばれし「強き者」に委ねるしかない市井の人々。
悔しくて情けなくてちょっぴり諦観もあって、でもやっぱり意地がある。
自分の無力さに打ちのめされながらも、最後までひたむきに抗う姿。

凡人にだって人生があり、プライドがあるということを、ほんの少しだけ観る者に想像させる表現。

そんな「非凡な凡人」こそがさゆの出した答えでした。


凡人をどう演じるか。
この先、井上小百合が舞台に立ち続けるのであれば必ず必要となるであろうスキルです。
そのひとつの答えを見出した『愛のレキシアター』は、彼女にとってとても意味のある経験だったのではないでしょうか。

稲穂を振りながらつらつらとそんなことを考えた、春の午後でした。


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deux補正2
2019年3月に赤坂ACTシアターで行われた『愛のレキシアター』、2回観劇してきましたのでレポートします。

ふいに気づいたら泣いている、豪華絢爛で奇想天外な再生の物語


こちらはレキシの名曲を元にしたミュージカル。
どれほど伝わるかわかりませんが、一応あらすじを書いてみます。


主人公の織田こきん(山本耕史)は35歳のニートで引きこもり。母親・胡蝶(高田聖子)とのふたり暮らし。
家に訪ねてくるのは引きこもりサポートネットの明智(藤井隆)ぐらい。実は胡蝶と明智は学生時代、恋人だった。

こきんは歴女ブロガー、カオリコ(松岡茉優)に夢中。彼女に気に入られようと「ヨシツネ」というハンドルネームを使い偽のプロフィールをでっち上げる。
そんなこきんたち3人、そしてカオリコは歴史のテーマパーク、夢の国レキシーランドへと招かれる。

彼らを迎えるのは総支配人ウォルト・レキシー(八嶋智人)やくノ一さん(井上小百合)、腰元さん(浦島りんこ)、代役侍(前田悟)といったキャストたち。
さらにそこには失踪したこきんの父親・将軍(山本亨)となぜか実体化したヨシツネ(佐藤流司)の姿もあった。

ヨシツネに一目ぼれするカオリコ。将軍との過去の因縁から暴走する明智。こきんを亡き者にして自分が実体になろうと企むヨシツネ。
不穏な空気が漂う中、突如発生したクーデターにより殺害されるレキシー。

混乱を極めるレキシーランドの真ん中でカオリコが叫ぶ。

「あなたは…武士!」

愛する人の言葉を背に、ひとりの男が立ち上がる。
過去を過去にするために。

そして大団円。
たどり着いたのは弥生時代。

隣にいる誰かを幸せにするために、家を建て家族を作るという営み。
それが、愛の始まり。

名曲『狩りから稲作へ』が人間賛歌として高らかに鳴り響く中、会場全体がひとつになって振る稲穂。

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あぁ、思い出すだけで最高だ笑
でも観てない人にはさっぱりなんだろうな~。

一言でいえば、再生の物語。
でもそんな難しく考える必要は一切ありません。基本ずっと笑ってて、クライマックスはシリアスで、最後に余韻があって、なんだかわけもわからず涙が出そうになる。

元々チャップリンが大好きなので、こういうのに弱いんですよね。

めちゃめちゃ面白かったです。
井上小百合を好きだったおかげでこんな素晴らしい舞台を観ることができました。
さゆ!君のおかげだ、ありがとう!笑

いやレキシの曲で舞台作るってそもそも扱ってる時代がばらばらだし!問題をテーマパークのアトラクションにしちゃって一挙解決という発想がまず素晴らしい。

そして楽曲のクオリティ高すぎ。観た人はみんなレキシの曲が好きになったでしょう。
金を湯水のように使ったレキシのプロモーションなんじゃないかってくらいです。いやマジで。

豪華絢爛キャスト、しかも全員芸達者な皆さんが演技して歌って踊って殺陣もやる。アドリブもバリバリだし、なんならさゆの悩み相談だって聞いちゃいます。(毎日さゆのガチの悩みに八嶋さんが答えるコーナーがありました)

キャストも音楽も脚本もその他諸々も、全てがもの凄い地力。
我らが井上小百合は、そんなモンスターたちに囲まれてどう戦ったのでしょうか。


続きます。

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