ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

タグ:若草物語

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そういえば私が観劇した2回はどちらも客席にサユリストはほとんど見かけませんでした。せいぜい5%ぐらいかなという感じ。平日の銀座という場所柄もあってか客層はお年を召した方が多かったように思います。

さゆとジョーと乃木坂と


主演の朝夏まなとさんが演じたジョー。
素晴らしかった。
最初は男勝りでガサツで頑なだった彼女。それがどんどん魅力的になっていく姿が圧巻でした。

モバメで本人も「ジョーの生き方に共感する」と言っていましたが、ジョーと井上小百合は似てると思います。ジョーが「結婚しない!」と叫ぶたびに、いやお前さゆかよと内心突っ込んでいました。

これ言ったら本人は怒ると思いますが、一幕のジョーは昔のさゆを思わせます。
なりたい自分があって、そのためにこうすべきだというのが凄く強くあって、それ以外を受け入れられない。
選抜発表のたびに涙を流していた、あの頃のさゆのようです。

でも、メグの結婚、そして何よりベスを看取ったことにより彼女は変わっていきます。

周囲の人も含めて自分であるということ。
形が変わっても、変わらないものがあるということ。絆なんて一言では表現しきれない、とても特別な強い結びつき。
それに気づいて大切な人たちへの愛情を身構えずに出せるようになった二幕のジョーはアンダラ2ndシーズン以降のさゆのようです。どんどん魅力的になることも一緒。

そして四姉妹の強い結びつきは、乃木坂みたい。
「マーチ家の女は無敵なのよ!」と、2017年神宮での「1期!1期!1期!1期!」のイメージがかぶります。

とここまで書いてきましたが、実は本人はこれと違うことを言っています。
舞台のアフタートークで自分と似ている登場人物をベア教授、その理由を「ジョーと出会って他者を受け入れていく感じが自分に似ている」と語りました。そして「自分にとってはジョーが乃木坂46」とも。

まあ当てはめた役こそ違いますが言ってる内容は概ね同じなので良しとしましょう笑

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周囲への愛と感謝を抱いて、すべて満たされた表情で


そしてさゆ自身の演技について。

若草のベスと言えば『ガラスの仮面』北島マヤが劇団つきかげで初めて演じた由緒正しい役です。

公式Twitterには「井上さんがベスとしてそこに立っているだけで、なんだか胸の奥がツンとしてしまうくらいのハマり役」と書かれていましたが、サユリストならこのフレーズを読んだだけで胸の奥がツンとしちゃいますよね笑

一幕のベスは、愛らしさとピュアネスの権化みたいでした。まさにガチ天使。『夜曲』のサヨちゃんと似ているけれど、どこか違う。何だろう、と思いながら観ていました。

そして二幕に入ります。死期を悟ったベスがジョーと最後のお別れをする凧のシーン。初回観劇時、ここで泣くのは必死に我慢しました。でもその後のジョーが若草物語の着想を得て書きだすところ、他の姉妹たちがないものねだりをしている中で「ベスはただひとり満たされた表情をしていた」とジョーが表現したところでもう限界でした。

ああ、彼女の表情は「すべて満たされた表情」だったんだ。だからあんなにも尊く観えたんだ。
そう思った時に泣けて泣けて仕方ありませんでした。

満たされた心で目の前にあるすべてを愛したベス。

一幕のさゆは、見事なまでにベスでした。


2019.09.17 感動回


もうひとつ、どうしても書いておきたいことがあります。

2度目の観劇は9月17日のマチネでした。

スケジュールも後半に差し掛かり、カンパニーの息もぴったり。笑ってほしいシーンで笑い声が出る雰囲気の良い客席。

一幕のラスト、軍に入隊するブルックがメグにプロポーズするシーン。ふたりのデュエットが観客の心を震わせ、美しい余韻を残します。

二幕。
凧のシーンが始まり、客席のあちこちから鼻をすする音が聞こえてきます。

そしてこの日のベスはまさに絶唱でした。

個人的には舞台女優としてのさゆの最大のウィークポイントって、声量だと思っています。でもこの時は、彼女の舞台を何十回も観てきた私ですら「これは本当に井上小百合なのか」と思うような、力強くて声量豊かで、なのに儚さで胸が締めつけられるような歌声。

ジョーとベス、互いを見つめながら歌うふたりの間に愛情と寂しさ、そして感謝がほとばしり、それが観客を包み込みます。

 もう、行かせて

最後にベスがこう呟いた時、何人もの人が客席で肩を震わせて泣いていました。

無論、私もそのひとりです。

きっと彼女を初めて観た人たちの中にも何人かは、この日を境に井上小百合の名が刻まれたことでしょう。

この日、スタンディングオベーションが起きました。
東京千秋楽でも何でもない、普通の平日のマチネで突如発生したスタンディングオベーション。

ただただ心が震わされたからそれを伝えたくて、巻き起こった暖かい拍手。
それはまるで2014年10月16日のアンダラ2ndシーズン「感動回」のようで。

素晴らしいものを観せてもらいました。


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2019年9月に日比谷シアタークリエで行われた『リトル・ウィメン』、またも2回観劇してきましたのでレポートします。まさかこの年齢になって『若草物語』と接する機会があるとは…推しとは我々ファンを思いもよらない場所に連れて行ってくれるものですね。

超実力派キャスト10人による世界的名作


かの有名な『若草物語』ですが、私も幼少期に読んだきりで完全に内容を忘れていましたので、公式のイントロダクションとストーリーを載せておきます。

イントロダクション:

世界的名作小説『若草物語』とその続編『続・若草物語』を下敷きに、慎ましい生活の中にも喜びを見出し、助け合って困難に立ち向かう四姉妹とその母、そして彼らをとりまく人びとの物語を美しいミュージカルナンバーに乗せて描きます。

女性が職業を持って働くことが稀であった時代に、小説家をめざして世の中に漕ぎ出そうと奮闘し、夢をつかんでいくジョー。その姿は、いまだ窮屈の多い現代を生きる我々にも勇気を与え、また彼女を取り巻く家族との絆は身近な人の大切さを改めて感じさせてくれるでしょう。

ストーリー:

1865年。ニューヨークのカーク夫人(久野綾希子)宅に下宿するジョー(朝夏まなと)は、出版社から届いた手紙を読んで肩を落としていた。自ら持ち込んだ小説の、22回目の出版拒否を受け取ったのだ。同じく下宿人のベア教授(宮原浩暢)は「あなたの小説を気に入る人は必ずいる」とジョーを励ます。

時は戻ってその二年前のマサチューセッツ。メグ(彩乃かなみ)、ジョー、べス(井上小百合)、エイミー(下村実生)の四姉妹は、牧師として南北戦争に従軍した父を、母(香寿たつき)と共に待ちながら、慎ましくも明るく暮らしていた。ジョーは、物語を作っては姉妹たちに語って聞かせ、小説家になることを夢見ていた。

メグと共に初めての舞踏会に出席したジョーは、隣家のローレンス氏(村井國夫)の孫息子、ローリー(林翔太)と出会う。やがてローリーは姉妹の“5人目のきょうだい”となり、姉妹との絆も深まるが―。
公式サイトより引用)

今作の素晴らしさは、なんといってもキャスト。

まずアンサンブル専門の役者さんがいないのです。通行人役などもメインキャストのどなたかが担当し、わずか10人のキャストですべてが演じられます。
上のストーリーでは9人しか出てきませんがもうひとり、メグの夫になるブルック(川久保拓司)がいます。

そしてその10人がまた豪華。

朝夏まなとさんは元宝塚宙組トップスター。
彩乃かなみさん。元宝塚月組トップ娘役。
香寿たつきさん。元宝塚星組トップスター。
久野綾希子さんは元劇団四季の看板女優。
村井國夫さんは経歴を一言では表現できないのですが、TV・映画・舞台それぞれでもの凄い実績のある超ベテラン。ハリソン・フォードの吹き替え声優としても有名でインディ・ジョーンズやハン・ソロ役を演じておられます。

宝塚トップが3人に劇団四季の看板女優に村井國夫さんですよ。
村井さん以外の男性3人も年齢的には中堅どころでいずれも経験豊富な実力派。

そんな錚々たるキャストの中に放り込まれたアイドルふたり、我らが井上小百合とフェアリーズの下村実生さん。

皆さん素晴らしかったのですが、ここでは3人の方について書きます。

彩乃さんは本当に美しかった。思わず初回観劇後どんな人か調べてしまいました笑
それで元宝塚月組トップ娘役だということを知り、深く納得した次第。どちらかと言えば地味目の顔立ちだと思うのですが、舞台上でスイッチを入れた時の美しさは息をのむほど。そしてシーンごとに華やかさを出し入れするその巧みさにも驚きました。

ジャニーズJr.の林翔太さん。お顔は失礼ながら2.5枚目なのですが、歌声が素晴らしい。明るくて伸びやかで、若さと希望と育ちの良さを感じさせるローリーにぴったり。動きもキレッキレでさすがはジャニーズ入所19年目の貫録を感じさせました。

下村実生さんは初めてのミュージカルとのことですが、エイミーの駄々っ子だけど憎めないところを好演した一幕、レディに成長した二幕と劇中劇でのトロルといずれも存在感抜群。トロル役は完全に出オチなので、その日の客席の温まり具合によってはダダ滑りなこともあったと思いますが、皮肉でも何でもなく実に堂々と演じていました。

ジョーと喧嘩して仲直りをしたいのに素直になれないシーンでの「ベス…あなたみたいに優しくなりたい」「エイミーは優しいわ」というやり取りでエイミーの内面の愛らしさが見事に表現されていたのが印象的でした。

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生きるとは変わること


わずか10人のキャスト。豊潤な音楽。舞台を彩る凝った小道具やリアルヴィンテージも織り交ぜた衣装。どこにも綻びのない美しく完成された世界。

こう書くと、ともすれば箱庭的な触れると壊れてしまいそうなものを想像するかもしれません。

しかしこの作品は決して閉ざされたものではありませんでした。

なぜなら、これは観る者にとって「私の物語」でもあるから。

昔から児童文学の傑作とされアニメ世界名作劇場にもなった『若草物語』ですが、この舞台は大人になった人たちにこそ沁みる内容でした。

憧れを捨てて現実の中にある幸せを見つけたメグ。
周囲を拒絶することが拙さだと気づいて自分を広げたジョー。
誰かを羨むことをやめて自分の中にあるものの価値を認めたエイミー。

変な言葉かもしれませんが「きちんと大人になってきた」人なら誰もが、彼女たち3人の姿に自分と重なる部分があるのではないでしょうか。

変わるとは汚れることじゃなくて成長すること。
その尊さと美しさ。

そんなことを感じさせる、美しく完成され、かつ力強い舞台でした。


続きます。

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