タオル補正
『思い出ファースト』
乃木坂46の3rdアルバム『生まれてから初めて見た夢』収録。2017年5月24日リリース。歌唱メンバーは3期生12人、センターは大園桃子。

アンセムよりこっちが好き


3期生のアンセム、と言われればそりゃ間違いなく『三番目の風』です。

もちろん異論はありませんし自分もめちゃめちゃ好きな曲です。ライブでの盛り上がりも半端ない。

でも個人的にはこの『思い出ファースト』も負けず劣らず、いやなんならこっちの方がちょっと好きかもしれません。

その理由を考えて思い当たったことがあります。
そうか、『思い出ファースト』ってあの曲に似てるんだ。

もうタイトルの段階で書いちゃってますけど笑、この曲『走れ!Bicycle(以下、『走バイ』)』の3期生版ですよね。

ひとつ前の記事で考察した『走バイ』。その魅力をこんな文章で表現しました。

 「青春感」「通り過ぎた青春感」
 「いつか今が思い出になってしまうことに極めて自覚的」

これ、そのままこの曲にも使えちゃいます。
まあタイトルからそもそも「思い出」って入ってますからね。

歌詞の内容は一言で言ってしまえば「大切なのは最高の思い出を作ることだから喧嘩なんかしないよ」。
ちょっとわがままな彼女を甘やかして言うことを聞いてあげる主人公の心情が一人称で描かれています。まあ率直に言ってしょーもないラブソングです笑

なのになぜこんなに切なさを感じさせるのか。
その鍵は歌詞のこの部分にあります。

 思い出ファースト いつか振り向き
 最高の夏だったと…

この「いつか」の時。私にはどうしても「君」が隣にいるイメージがわきません。

なぜなら『思い出ファースト』で描かれている「君」には魅力がない、というかほとんど描写すらされていないからです。そのため永続的な関係性とは到底思えない。
何年か過ぎて、主人公がひとりで思い出し懐かしんでいる。「あの頃は若かったしバカだったけど、キラキラしてたよな…」そんな心象のように感じます。



「君」のAKB、「僕」の乃木坂


編曲も切なさを強調しています。

イントロのド頭、オルゴールみたいなシンセの音色からして実にノスタルジック。
そこから一気に盛り上がるイントロも夏っぽいしセンチメンタルだし。

でもまあ、これ自体は夏曲としてはよくあるタイプのイントロです。
AKB48の『ポニーテールとシュシュ』や『Everyday、カチューシャ』あたり、特に前者にイントロの構成は酷似していますよね。

これらAKBの夏シングルと『思い出ファースト』を比較すると興味深いことに気づきます。

歌詞は同じく「僕」の一人称ですが、AKBでは「君」の魅力を描写する表現がこれでもかと続きます。
そしてメンバーは「僕」の言葉を歌いながら、演じているのはむしろ「君」。キラキラ輝く魅力的な女の子を演じています。

「こんなにキラキラしているけれどそれは実は一瞬のことなんだ」と観る側に思わせる、アイドルの煌めきが一瞬であることと重ねて切なさを感じさせる秋元康の得意技ですね。

翻って乃木坂。

先に述べたように『思い出ファースト』の歌詞では「君」に関する描写がほぼありません。つまりメンバーが演じているのは曲中の「君」ではなく「僕」。
前の記事書いてる時点では気づいていませんでしたが『走バイ』も同じです。「君」についての描写が極端に少ない。

それがAKBと乃木坂の違いというにはサンプルが少なすぎますし、秋元康がそこまで意識的に書き分けているとは到底思えません。事実『裸足でSummer』では「僕の言葉を歌いながら君を演じて」いますしね。

ただ、その存在自体に「儚さ」「ノスタルジック」な魅力を纏っている乃木坂。
そんな彼女たちが「いつか今が思い出になってしまうことに極めて自覚的」な「僕」として歌い踊る姿が切なさを増幅させていることは間違いないでしょう。

観る側が切なさを感じるAKBに対し、切なさを感じながら演じている乃木坂。

そんな比較ができるかもしれません。



3年前の記憶


そして『走バイ』と最初のプリンシパルとがそうであるように、この曲と分かちがたく結びついている記憶があります。

2017年5月9日から14日の3期生単独ライブ。

たった3年前のことなんですね。
そのわずか3年の間にも色々なことがありました。
会場となったAiiA Theater Tokyoも既に閉館しています。

そして3期生もそれぞれ様々な浮き沈みを経ながら堂々たる乃木坂の主力へと成長しました。

この3期単独ライブについては以前に4期ライブの記事の中で詳しく書いたのでよろしければそちらもご覧ください。



ナチュラルボーン・センター大園桃子を中心に山下美月と久保史緒里が脇を固める『三番目の風』と同じ布陣。

3期新規のファンの方が多かったのでしょうか。コールもあまり定着していなく、アンコールも途切れがちで。まだメンバーもファンも手探りだった印象があります。

ここでも『走バイ』の考察で初めてのプリンシパルに挑んだ1期生たちについて書いた文章がそのまま当てはまります。

 まだ坂道を上りだしたばかりの、まだまだ無我夢中で本当に何者でもなかった彼女たち。
 若くて未熟で拙くてみっともなくて、でもそのひたむきな姿に胸を打たれた。

そんな3期単独ライブ。与田祐希が「3期の青春みたいな日々」と振り返った日々。
その本編ラストで使われ、エンディングテーマとして鳴り響いていたのがこの『思い出ファースト』でした。

 ラララララ… ラララララ…

ここが夏の終わり感を醸し出しすぎです。3期単独は5月だったのに笑

汗だくになった3期生たちが輝くばかりの笑顔でお互いを見交わしながら歌う姿がもうなんだか青春過ぎて。

忘れられない記憶です。


そして今。

3年経って、まだ全員残っていて。
現在の彼女たちが視線を交わしながら歌う時に去来する思いはいかばかりか。「よくまあここまで俺たちきたもんだな」ってとこでしょうか。(最近ずっと観ていた『LIVE-GYM』の影響です笑)

そんなことを考えながら観ているとまた涙腺が緩みそうです。

おかしな文章かもしれませんが、特別な思い出のある曲なのにいまいち定番化していないあたりがなんかこう逆に儚さとか切なさを深めているというか…そんな気がします。

アンセム『三番目の風』の陰に隠れてはいますが、乃木坂の、そして3期生の魅力が詰まった大好きな曲です。ライブでこの曲のイントロがかかるとひとりでめちゃめちゃ盛り上がります笑


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『思い出ファースト』/乃木坂46