タオル補正

自分の居場所失くしてたその時の彼女


その日からの数日は悪夢のようでした。

ラジオの生放送で号泣しながら謝罪するも火に油を注ぐ結果に。
運営は空虚な「深くお詫びします」というコメントを出しただけでだんまり。
公式には謹慎等の処分もないことも確定し、多くのファンはさらに激怒します。

翌週には第2弾の報道もなされます。
その週末に行なわれた握手会。
まっつんの背後には、屈強なSPと頭を丸めた乃木坂46運営委員長の今野氏が並び異様な雰囲気を漂わせていました。(後にこの時頭を丸めたのは病気の治療のためだったと語られましたが、当時のファンは知る由もありません)

そしてネット上は目を背けたくなるような罵詈雑言で埋め尽くされました。
乃木坂嫌いと秋元康嫌いとアイドル嫌いとドルオタ嫌い、そして「元ファン」が一斉に松村沙友理と乃木坂と乃木坂ファンに凄まじい量の悪意と非難を浴びせたのです。

間違いなく乃木坂史上最大の危機。
当時をご存じない方には信じられないと思いますが、本当にグループの存続自体が危ぶまれる状況でした。

私も「これまで通りに応援はできない」と感じ、乃木坂ファンを辞めるつもりでした。
最後のつもりで観に行ったアンダーライブ2ndシーズン。そこでもうひとりの推しである井上小百合の鬼神の如きパフォーマンスにより魂をぶん殴られて踏みとどまり、現在に至っています。

この間、まっつんは歌番組にも冠番組にも出演し続けます。当初は感情が失われてしまったかのような無表情で。後にはこわばりまくった笑顔で。
そして、その度に毎回ネットは悪意に満ちた書き込みで溢れました。

11月には内定の報道が流れていた紅白に落選というショッキングな出来事もありました。(これは大和里菜の件の方が問題視されたためという説もあります)

そして紅白を逃したため年末に急遽開催された「大感謝祭」で、まっつんはマイクを持って進み出ます。

現場にいたファンによればその瞬間「会場が凍りついた」。

そこで語られたのが

 私は乃木坂で、もう少し頑張りたい

正直、個人的にはもう辞めてほしいと思っていました。
許すとか許さないではなく、これ以上元推しが晒しものにされるのを見ていられなかったのです。

この後も彼女に対する非難は続きます。

次の11thシングル『命は美しい』では3列目に下がったものの選抜に残留し、ファンの間でも大きな論争を呼びます。

「選抜から落とすべき」というファンもいれば、アンダーファンからは「アンダーを懲罰扱いするな」「アンダーライブに参加してほしくない」という声も上がります。いずれにせよ、彼女の選抜入りに対する否定的な意見が大勢を占めていました。

しかしこの選抜発表を行った時の『乃木どこ』で、設楽さんがこんな言葉を掛けます。

 正直 色々ありましたからね
 俺今回入んないと思いました

 もちろん責める人の事も分かるし
 でもやっちゃったのは自分だから
 それは責任もあるとは思うけど

 昔のバカみたいな事を言ってる
 松村が戻ってきてくれないと寂しい

この後から、少なくとも『乃木どこ』内では通常営業に近い雰囲気に戻りはじめます。
(すぐに番組自体が終了という名のリニューアルをするのですが)

とはいえもちろん彼女の人気は急落しました。

かつて屈指の人気だった握手会の完売速度もだいたい12~13番目ぐらい、「選抜ボーダーメン」と呼ばれるメンバーたちよりはちょっと上というあたりにまで低下します。
17th『インフルエンサー』から個別握手会不参加になりますが、そこまでほとんど握手人気は回復しませんでした。(ただ2019年あたりからは特に女子人気がかなり高かったのではないかと思います)

2017年12月に初の写真集を発売。同時期に出た若月佑美や新内眞衣よりは売れたものの堀未央奈よりはだいぶ下。かつての人気を知るものとしては寂しい数字でした。

そんな目に見える人気指標はともかく、彼女の動きは徐々に活発化していきます。

2015年3月にはファッション誌の専属モデルに。
同年6月の舞台『じょしらく』で蕪羅亭魔梨威(ぶらていまりい)を演じ、ラストの台詞「これ以上、落ちてたまるか!」を絶叫。彼女の状況とリンクした演技が良くも悪くも話題になります。

同じく2015年の夏に公開されたドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方』では彼女の件から紅白落選までの流れが大きな山場として描かれました。

一時まったくフィーチャーされなくなっていた冠番組でも、いつしか独自のキャラクターを武器にかつてのような活躍が目立ちはじめます。

そして緩やかにグループ内での序列は回復し、2016年の15thシングル『裸足でSummer』で1年半ぶりに2列目(福神)復帰。以降はその座を守り続けます。ただしフロントは白石麻衣の卒業シングル『しあわせの保護色』のみでした。

やっぱりまつが好き


すごく私事になってしまうのですが、個人的にはずっとまっつんを素直に受け入れられずにいました。
嫌いではない。可愛いとも思う。でも、まっつんが何をやっても「ふーん」という感じ。彼女に心を動かされるのを無意識に拒絶していたような気がします。

それがようやく終わりを告げたのが、2017年7月2日、神宮球場。
(3年近くですから自分で書いていて嫌になるぐらいしつこい男ですね笑)

初の東京ドームが発表されたあの日。期別ライブで乃木坂の底力を知らしめたあの日。
そして、ヒム子と一緒に『インフルエンサー』を踊ったあの日です。

ヒム子の登場に驚き沸き立つメンバーたち。
あるものは笑い転げ、別のものは笑顔で踊り続けます。

そんな中、抜けで映っていたのは
凛とした表情で切れのあるダンスを踊る松村沙友理の姿でした。

鳥肌が立ちました。

一番人気だった頃からさんざん叩かれていたまっつんのダンス。

とにかく「踊れない」。
初期は本当にダンスが苦手でしたし、できなくてもヘラヘラ笑ってごまかしていたという印象があります。(実際は照れ隠しだったのでしょうが)

その彼女が、こんなにも堂々と美しく踊っている。

それを観た瞬間に、自分の中にあったわだかまりのようなものがほどけてなくなりました。

きっと「ああ、まっつんも頑張ったんだな。あんなことがあってどん底まで落ちて、そこから這い上がるために真剣に頑張ったんだな」みたいな感情が湧いたんだと思います。

そこからは「推し」とまではいきませんが「好きなメンバーのひとり」という感じで応援してきました。


その神宮の直後の雑誌インタビューの中に、強く印象に残っている発言があります。

 …きっと3期生が中心となったときも私はまだ残っていると思うけど

1期生たちが卒業して行っても、自分は残ってグループの行く末を見守る。そう言っているのです。そしてこれは現実のものとなりました。

彼女自身に「禊」という意識があったのかはわかりません。

でも個人的には、ずっと心の底に「グループにもメンバーにも本当に迷惑をかけたから、自分の都合は後回しにしてできる限りの恩返しをしたい」という思いを抱えて活動しているように見えました。

さゆりんご軍団も2期生を引き上げる企画でしたし、卒業発表の時にも「自分が見送りたいと思った子(=白石麻衣)の卒業を待ってから卒業しようと考えた」と言っていましたね。

そして自身の卒コンも半分は「さゆりんご軍団ライブ」にしました。
もちろん軍団長としての悲願ではあったでしょう。でも卒コンのなかった佐々木琴子と中田花奈、そしてそのファンへのプレゼントという側面も大いにあるのではないでしょうか。

冠番組でも初期の「特攻隊長」的なキャラクターから、普段は一歩引いた位置にいながら求められればスッと出ていって見せ場を作る、そんなスタンスに変わっていったように思います。

まあ単に楽しんでるだけの時も多々ありましたが笑

大きな挫折で一度輝きを失った彼女は、いつしか周りも自分も輝かせる存在へと成長していました。



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note上で乃木坂46に関する有料記事を公開しています。どちらも無料で読める部分がありますのでぜひご覧ください。

『アンダラ伝説』¥300
伝説のアンダーライブ2ndシーズンを題材にしたセミドキュメンタリー小説。あの頃の熱量を叩き込んだ渾身の50,000文字です。
 

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当ブログに掲載された記事を再構成し加筆したもの。総文字数10万文字、加筆部分だけでも22,000文字以上のボリュームでブログをご覧の方にも楽しんでいただけることと思います。