ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

カテゴリ:乃木坂46 > 舞台レポ

deux補正2
前の記事ではTeamSTAR5人の演技についての感想を書きました。

関連記事:


今回は5期生版『セラミュ』の意義について。

彼女たちが『セラミュ』を演じる意味


前の記事で書いたように様々なタイミングが重なって実現できたであろう今回の再演ですが、それと同時に現在の彼女たちがセーラー戦士を演じるのは必然であるように感じました。

まず「5期生が」演じる意味。

かつて『2020年の乃木坂46』で新4期生加入に際し「4期版『じょしらく』をやってはどうか」と書いたことがあります。

遅れて加入した彼女たちが4期生と、そしてかつてその役を演じた先輩たちとの距離を縮める格好の機会になるのではないか、と。

今回の再演にはそれと同じような効果があったのではないでしょうか。

5期生たちは過去の先輩の演技を何度も繰り返し観たそうです。

舞台で活躍を続ける卒業生たちの姿。そして憧れの3期生4期生たちがまだ加入間もない時期に懸命に食らいついている姿も。
※2018年の3期生(山下美月、伊藤理々杏、梅澤美波)はお見立て会から1年半後、2019年の4期生(田村真佑、早川聖来)は同じく10ヶ月。ちなみに今回の5期生は2年2ヶ月

何か感じるものがあったはず。
そうやってまたグループの歴史が続いていくのです。

中西アルノがお歳暮を贈った仲の向井葉月に水野亜美をどう演じるか話せていたら嬉しいですね。

そして「乃木坂が」演じる意味。

運命の5人

過去に演じた先輩たちも今回の5期生も異口同音に「セーラー戦士が集まっていく物語がアイドルである自分たちに似ていると思った」と語っています。

前作までは期を跨いで「キャリアも年齢も違う私たちが集まった奇跡」。
今回は「この5人(11人)が乃木坂の5期生として集まった奇跡」でした。

ゴリゴリの舞台ファンや純粋なセラミュファンからすれば「演者の関係性」なんて知ったこっちゃないだろうし、それに立脚した感動なんて邪道以外の何物でもないでしょう。

それでも、乃木坂版においてはこれも…というかこれこそが醍醐味だと思うんですよね。

ストーリー上のセーラー戦士たちの関係性と現実のメンバーとしての絆が交錯する瞬間。

前の記事では「木野まこと像を提示した」と書いたなおなおが、終盤にどうしても冨里奈央が抑えきれずに浮かべる感極まった表情

「遅れて登場」のセーラーヴィーナスが実際に遅れて5期生に合流した川﨑桜と池田瑛紗だったり。

そして最泣きポイント(過去の先輩たちはみんな千秋楽でガチ泣きでした)である『運命の貴女へ』歌唱前の「みんながいたから、ここまでこれた」という言葉。

それこそ「嘘がない」からこそ観ているこちらの胸に迫るのです。

楽曲PVだって現実とリンクした内容のものがありますよね。
そしてそれが名作を生んだりするじゃないですか。それこそ『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』とか。

それによって物語が本来持つ以上の奥行きが生まれるのです。


私は井上小百合推しですので彼女が主演である2018年版のTeam STARは都合3回観劇しましたし、同年のTeam MOON(山下美月主演)や2019年(同じく久保史緒里)バージョンもCSで放送されたものを観ています。

正直、思い入れも相当あります。

そんな私にとっても、今回の5期生版は諸手を挙げて称賛したい素晴らしいものでした。

5期生が『セラミュ』をやってくれて、本当に良かった

主演の井上和と菅原咲月は口を揃えて「バトンを繋いでくださった先輩方のおかげ」と言っていましたけれど、

あなたたちも立派にバトンを繋ぎましたよ

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過去に当ブログに掲載した記事を再構成し加筆したもの。
総文字数84,000文字、加筆部分だけでも10,000文字以上のボリュームでブログをご覧になった方にも楽しんでいただけることと思います。

「今にして思うこと」は各章の末尾に「追記」という形で新たに文章を加え、さらに書き下ろしとして4期生の初冠番組であった『乃木坂どこへ』を振り返っています。


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それは予想外の嬉しいニュースでした。
突如発表された5期生版『セラミュ』。

2024年4月、IMM THEATERにおけるTeamSTAR公演を2回観劇してきましたのでレポします。

大英断


乃木坂46「5期生」版 ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』。
2018年と2019年に上演されたものの再演。

まず何より、5期生に『セラミュ』を演じさせたという英断に拍手を送りたいです。

そもそも5期生は11人。セーラー戦士5人のダブルキャスト自体が不可能でした。

しかし。

経緯や内情は存じ上げませんが、発表の時系列から推測するに奥田いろはが『ロミオ&ジュリエット』のオーディションに合格した(素晴らしい偉業!)のが最初なのでしょう。

そこで「いろはが離脱する期間があるのか…え、ってことはセーラー戦士5人をダブルキャストで5期生版『セラミュ』できるじゃん!」と思いついた誰か、そしてゴーを出した誰かの超ファインプレー、大英断

そこからキャストとスタッフと会場のスケジュールを押さえ開催にこぎつけた運営の苦労も相当なものだったでしょう。

そして何より新参者とスタ誕ライブと年末進行とアンダラとバスラと美月卒コンに冠番組まである5期生たちの頑張りは本当に想像を絶するものだったと思います。

全体の振り返りは次の記事に譲るとして、ここではTeamSTAR、5人の演技についての個人的な感想を。

川﨑桜:セーラーヴィーナス/愛野美奈子

さくたんはさくたんでした笑
ただかつての西野七瀬も「何を演じても西野七瀬」でしたしそれこそ木村拓哉さんもそう言われるので、逆に演者として武器になるかもしれません。

それにしても相変わらず抜群に華があります。「美の化身」にふさわしい。
『超・乃木坂スター誕生!』のコント「千葉魂」で「クイーンって、呼んでくれぇ~泣」のさくたんがクイーン・セレニティの前で「クイーン!」と跪いているのはなんか面白かった笑

冨里奈央:セーラージュピター/木野まこと

初登場シーンの最初の台詞「危ないよ、気をつけな」で野太い声を出して客席をどよめかせます。
この発声一発で自分の演じる、演じたい木野まこと像を観る者に伝えたのはお見事。

自身のトレードマークである満面の笑みは封印して、凛々しい表情のまま頬と口元を緩める笑い方をしていたのも印象的でした。

一ノ瀬美空:セーラーマーズ/火野レイ

ずっと真顔。そして素晴らしく綺麗な立ち姿。
高い集中力で火野レイとしての自分をキープしているのが好感持てました。
いわゆる憑依型っぽく、俳優としての可能性を感じます

普段は笑顔の印象が強く「可愛い系」に見える彼女ですが、実に整った顔立ちなのも良くわかりました。

中西アルノ:セーラーマーキュリー/水野亜美

さすがの歌唱力。特に複数人で歌う際に周りと合わせる能力が非常に高い。

逆に演技にはやや迷いがあったように見えました。水野亜美というキャラクターの要素のうちどこか(例えば「理知的」とか)をもっと前に出した方が観客に伝わりやすかった気が。

菅原咲月:セーラームーン/月野うさぎ

素晴らしかったですね。

菅原咲月であり、同時に月野うさぎ
先達・井上小百合は演じる際に自分とその役柄の共通点を見出し「だからこの役は私!」というアプローチをするそうですが、それと同じものを感じました。

『超・乃木坂スター誕生!』の「さつまいろ鎌倉ロケ」で見せたような「楽しそうに笑って踊ってお調子者」な姿が覚醒前のうさぎちゃんと大いに重なります。

だからこそその後の演技に、自分の運命に翻弄されながらもそれに立ち向かう姿に説得力があるのです。

「おっちょこちょいの女子中学生」が「世界を救うスーパーヒーロー」になるという振り幅MAXでありながら、そのどちらも紛れもなくひとりの女の子であると観客に思わせる説得力

彼女自身はブログでそれを「嘘がない」と表現していましたが、奇しくも月野うさぎを演じた時の井上小百合も同じ言葉を使っていました。

そしてやや蛇足になりますが舞台上で月野うさぎでない瞬間がないのも凄い。

なおなおやみっくもそれは同じなのですが、さっちゃんは自分にスポットライトが当たっていない時の演技が実に細やかで質量ともに図抜けていました。(他のキャストはそれをやらない演技指導が出ていたのかもしれませんが)

間違いなく彼女には演技の才能があると思います。


続きます。

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前の記事では全体の感想を書きました。

関連記事:


こちらではキャストの皆さんについて。

ヴィヴァ!


最初に挙げたいのがアントニオ・サリエリ役の相葉裕樹さん。
やっぱり『ヴィヴァ!イタリア』の歌唱が超絶。素晴らしく心地よい音圧。
派手めな顔立ちでボリューミーなヘアスタイルもゴージャスな衣装も凄く似合っていました。
悪役にされがちなサリエリ先生をコミカルな憎めないキャラとして演じていたのも好感。

個人的に初めて観る役者さんなので後から調べたら『レ・ミゼラブル』も出演されている方なのですね。そりゃ上手いはずだわと納得。

ナンシーとオルソラの2役を演じた田村芽実さん。

なんとまだ24歳。若い!
2011年8月にハロー!プロジェクトのアイドルグループ「スマイレージ」(現「アンジュルム」)に加入ですから、井上小百合と少し重なる部分がありますね。

彼女は2016年5月にグループを卒業。
その時点から目標として明言していたミュージカル俳優としてのキャリアを着実に積まれている印象です。

特に良いなと思ったのが演技も歌唱も振り幅があるところ。
老婆ナンシーでのコミカルな演技、自責の念にさいなまれるオルソラのシリアスな演技。
そして老ナンシーでの太い歌声とオルソラでの哀切な歌声。
どちらも非常に良かったです。(もちろん若ナンシーのキュートさも)

モーツァルト役の平間壮一さん。

「当てはない、ツテもない」だから「自由だ!」と歌うモーツァルト。
なんと素晴らしい発想の転換笑

なんというか「音楽の妖精」みたいな。そんな浮世離れした素軽い演技が非常に印象的でした。

そして主演の海宝直人さん。

まあ今さら私なんぞがどうこう言うのもはばかられるぐらいのキャリアで『レミゼ』だの『ミス・サイゴン』だの『ジャージー・ボーイズ』だの『アラジン』だの『ライオン・キング』だのビッグタイトルに数多く出演されてきたビッグネームです。

私が観劇したプレビュー公演は調子がいまいちだったのか出の音がブレていることがあったのですが、一瞬で立て直すその鋼の声!

白眉はやはり『ドン・ジョヴァンニ』の歌唱。
「胸を張って地獄の炎に飛び込もう」は鳥肌ものでした。

強くて儚くてやっぱり強い


ここまで挙げた皆さんはいずれもミュージカルで実績十分な強者たち。

その中で我らが井上小百合はどうだったかというと。

歌上手くなってた。(偉そうな言い方ですいません笑)

上で挙げた皆さんと遜色ないとまでは言いませんけれど、『ヴィヴァ!イタリア』でサリエリ先生に負けじと野太くヴィヴァ!するさゆは最高でした。
『コジ・ファン・トゥッテ』でも良い高音を鳴らしていましたね。

ソロ歌唱の『街角の女の子』がさゆのキーの美味しいところと合ってなかったし曲自体も重かったのがちょっと残念でしたが。

さゆ史上最大であろうボリューミーなウィッグもなかなかのインパクト。

だいぶ前からずっと思ってたんですけど、さゆの「濃くない美人顔」って大抵のウィッグをつけこなせるので舞台俳優として大きな武器ですよね。
かつて『ミュージカル セーラームーン』で月野うさぎという超高難度の髪型をこなした実績もありますし。

そして今回演じたフェラレーゼ。

難しい役でした。
「歌はそこそこだが演技は大根」の役を演じる、ってなんだか謎かけのようですね笑

「男を掌の上で転がしているつもりがただ単に遊ばれているだけの女」と周囲に軽蔑されていて、でも彼女自身もそんなことは百も承知で。
「女を武器にしている自分」のことを嫌悪しながらも、自分ぐらいは愛してやらなきゃいけないと思っている。

ただそんな自分の心を押し殺すような生活を続けているうちに、いつしか「自分の心」なんてもの自体失ってしまった-そしてそれゆえに「上手いだけで人の心を動かせない、つまらない歌い手」になってしまった-ことにも気づいていた。

ただひとり、ダ・ポンテを除いて。
彼女の声に「サンマルコ広場で歌っていた女の子」の欠片を感じ取ったダ・ポンテの心だけは動かすことができた。

そんな彼と一緒にいる時間は、きっと「昔の自分に戻れるかもしれない」という希望と「戻れるわけなんかない」という哀しみが交互に訪れたことでしょう。

そんなふたりの別れのシーンは素晴らしかった。

ダ・ポンテは失脚し、夢から醒めなければならない時が来て。

『街角の女の子』を歌い終わったほんの一瞬だけ、フェラレーゼは微笑みを浮かべるのです

そして再び彼女は同情も感傷も拒絶する氷のような表情に戻り「さよなら」。
振り向かずに歩き去ります。

この先も一緒に歩けたらどれほど良いか。
でも、そんなのただのセンチメンタリズム。
私は絶対、自己憐憫に溺れたりしない。

「でも心が痛い」

そんな強くて儚くて、やっぱり強い女性の背中を井上小百合は見せてくれました。


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2023年6月から7月にかけて東名阪で上演された音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』。

北千住シアター1010でのプレビュー公演と池袋東京建物 Brillia HALLの本公演をそれぞれ1回観劇しましたのでレポートします。

いくつものカタルシス


公式によるあらすじはこちら。

 1826年ニューヨーク。年老いたロレンツォ・ダ・ポンテ(海宝直人)が回想録を出したことがきっかけで、若かりし頃を思い出すところから物語は始まる。

 1781年ウィーン。女好きで詐欺師のダ・ポンテは、ある事件を起こし、故郷ヴェネツィアを追われ、その才覚と手練手管でウィーンの宮廷劇場詩人の座までのぼり詰める。しかし、宮廷作曲家アントニオ・サリエリ(相葉裕樹)に言われるがままに書いたオペラの処女作を酷評され、行き場を失っていた。
そんなダ・ポンテの前に現れた、作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(平間壮一)。彼もまたあふれる才能を持て余していた。二人は意気投合し、革新的なオペラを作ることを決意する――。

公式サイトより引用)

モーツァルトではなく、彼のオペラの台本を書いたダ・ポンテを主人公にした物語。
『アマデウス』などモーツァルトものでは定番である、彼の死をミステリーとして扱うことはせず普通の病死(恐らくはこちらが史実通りなのですが)としています。

ふたりが組んだ作品は1786年『フィガロの結婚』、1787年『ドン・ジョヴァンニ』、そして1790年の『コジ・ファン・トゥッテ』。

一言でまとめてしまえば、ふたつの才能が巡り合って特別な作品を生み出し、そして離れていくまでの物語です。

上演時間2時間半にも及ぶ作品ですが、それでもやや消化不良な部分がある印象。

『コジ・ファン・トゥッテ』について回想録に詳しく書かなかった理由はなんかいまいちよくわからない。
あとサリエリ先生の人物像、というか行動原理がブレている気がする。これはオチ要員とシリアスな役割(ダ・ポンテに最後通牒を突き付ける)を同じキャラにやらせたのが原因かな。

…など、ところどころ「惜しい」感はあるものの個人的にはこの作品嫌いじゃないです。

その最大の理由はいくつものカタルシス溢れるシーン。

自分ひとりでは決してたどり着けない場所へ、こいつと一緒なら
そんなバディを見つけた瞬間の愉悦。

『フィガロの結婚』で浴びた万雷の拍手。
『ドン・ジョヴァンニ』のド迫力のラストシーン。

そしてなんといっても、この舞台自体のクライマックスでもある『コジ・ファン・トゥッテ』。

音楽のマジック


コジ・ファン・トゥッテ。

訳せば「女はみんなこうしたもの」。
でも転じて「人生万事こんなもんさ」と言っているように私には思えました。

 思い通りになんていかない
 理屈じゃ説明できない
 間違いばっかりで後悔ばっかりで

そんなもんだろ?

 自分の魂の欠片のような、特別な相棒とさえすれ違って袂を分かってしまう
 本当に運命の人と出会っていたのに、気づくことができずに別れてしまう
 絶対に手放しちゃいけないものだったのに、この手から滑り落ちてしまった

人生なんてそんなもんだろ?

でも、
だからこそ素晴らしいんだろう?

 あれは所詮、人生における一瞬の花火かもしれない
 それでも、あの輝きがあったからこうして今日を生きてゆける

舞台上にキャストがずらりと並び、朗々と歌い上げられるそれは、どこか「第九(『歓喜の歌』)」のようでした。

『レキシアター』や『キレイ』のレポでも書きましたが、好きなんですよ人間賛歌。

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素晴らしい大団円感。

本当は大団円なんかじゃないんです。
実際にはこの上演後に不評でダ・ポンテはウィーンを追われモーツァルトとも袂を分かち没落していくのですから。

ここではたと思い当たるのが、上で「よくわからない」と書いた『コジ・ファン・トゥッテ』について回想録に詳しく書かなかった理由。

それはもしかしたら上演当初は「不評だった失敗作」でしかなかった同作が、この後の人生において自分の背中を支えてくれたからではないでしょうか。

「あろうことか自身の作品に励まされて今を生きている」。
天才詩人にして天才詐欺師であるこのダ・ポンテ様がそんなことこっ恥ずかしくて書けるかよ!という照れくささ、気恥ずかしさ。

ミュージシャンは時々「楽曲が作り手である自分たちの手を離れ、時の流れと共にファンの方の人生で大きな意味を持つものとなった」と言いますが、きっとダ・ポンテの場合はそれが自分の作品によって引き起こされたのです。

語り部が年老いた後の彼だからこそ、この曲がフィナーレとして高らかに鳴り響く。

そんな音楽の力音楽のマジック
その素晴らしさと美しさ。

クライマックスの『コジ・ファン・トゥッテ』を浴びながら、私はそんなことを考えていました。


続きます。


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2020年8月に下北沢本多劇場で行なわれた舞台『ワイルドなサイドを行け!』の配信を観劇しましたのでレポートします。

配信を観てからなんと1年後の記事ですが、それには理由があります。

正直、ピンとこなかったんですよ。

観た当時に箇条書きレベルまでは書いていたんですが、自分のこの作品に対する評価がどうにも定まらなくてどうしたもんかなあと。

ようやくその辺りの整理がついたので記事にしました。

配信でドタバタは難しい?


凄く期待していました。

コロナ禍の真っ只中で「劇場の灯を消すな」という関係者の熱い想いで実現した「DISTANCE」第1弾。小劇場の聖地・下北沢本多劇場。無観客の一人芝居。
しかも井上小百合にとっても乃木坂卒業後の初仕事。

これでもかとばかりに盛り上がる条件が揃っていました。
そして井上小百合はこれまでと同じように我々の期待を見事に超えてみせます。

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本当に素晴らしい公演でした。

その好評を受ける形で実現したのであろう今回の第2弾。観客数は絞っているものの有観客。
しかも共演の小林顕作さんは舞台『帝一の國』で演出を務めた方。今回も脚本、演出も兼ねておられます。
第1弾の川尻恵太さんに続き、乃木坂時代からのご縁。嫌でも期待が膨らみます。

でも、ピンとこなかったんですよ笑

ざっくりあらすじを書くとこんな感じ。

 駆け出しの若手女優(井上小百合)はドラマの現場で上手くいかずにムシャクシャしながら帰宅。
 発泡酒を飲みながらマネージャーに渡された「一流女優になるための秘訣」DVDを再生するも、そこに現れたのはバブリーな服で女装したおっさん(小林顕作)。
 W浅野に憧れ「あさだりょうこ」と名乗るおっさんが激しく踊るだけという全くためにならない内容に激怒した若手女優は直接あさだの家に乗り込み…

あれ、なんか面白くなりそうな雰囲気ありますね笑

ですが…もの凄くストレートに言うと、正直「全力の悪ふざけ」の域を出ていないように感じました。

いやわかんないですけど。本当は背後に深いメッセージとか風刺が隠されているのかもしれないですけれど。少なくとも私はちょっと受け取れませんでした。

これたぶん劇場で観たら面白かったんじゃないかな。

劇場なら文字通りの「熱」=体温がダイレクトに伝わりますし飛び散る汗も観えます。
でも演者の熱量が伝わりづらい配信ではドタバタ喜劇は難しい。

第1弾でさゆと同日に配信された永島敬三さんの『ときめきラビリンス』がタイプ的にはこれと近い感じだったんですが、やはり私には「あんまり」でした。

しかもこの日の配信は2本立てで1本目が感動系。
その余韻が残っている中で、女装したおっさんのダンスにふてくされた表情のさゆが悪態をつくというのをひたすら見せられてもねえ。

何でも演じられるのは良いことなのか?


さゆが演じたのはずっとふてくされてしかめ面しながら乱暴な言葉を吐くガラの悪いキャラ。恐らく役名もありません(私が聞き逃していなければ)。

「あ゛~!ビールにすりゃよかった」

初っ端からこんな台詞が飛び出します。
過去に演じた役でいえば『あさひなぐ』の将子ちゃんをさらに感じ悪くしたような。

そしてその「感じ悪さ」は最後まで続きました。
この舞台だけ観た人は井上小百合にあまりいい印象持たないだろうなと思うぐらい。
いやそれは演技プランとしては成功なんですが、個人的にはなんか釈然としませんでした。

ファンの贔屓目はもちろんあるでしょう。そりゃ10年も応援してますから笑

でも井上小百合には「ヤな奴」じゃない役を演じてほしい。
それを演じられる幅の広さはあっていいけど。
この日のさゆはきっちり最後までトゲトゲしてイライラしている役を演じ切っていて、それは役者として正しいことだと頭では理解できるんですけど。

なんて言うのか、さゆは仮にヤな奴でも悪人でも「どこか魅力のある人物」を演じる方が上手いと思うんですよ。

もちろん「魅力がない人物」をその通りに演じられる能力も必要でしょうし、何ならそれを器用にこなす役者さんの方が食いっぱぐれはない気がしますが笑

私が思うに、たぶんさゆは純モブキャラに向いていない。
あるいは、純モブキャラとしてだったらさゆを使う意味がない。
いやこれだと語弊がありますし、これでさゆの仕事が減ったら困るので言い換えます。

チョイ役でも、どこか観る人の心にひっかかりのある役柄の方が彼女の個性が活きる。
(この日は二人芝居なので別にモブじゃないんですけど)

それが井上小百合という演者なんだと思います。

ラストに「…いつか見つかるといいな、W浅野の再来が」みたいな歩み寄りというか希望の欠片を残す台詞でもあれば良かったと思うんですけどね。まあそういう甘さを残さないのが恐らく小林さんのスタイルなのでしょう。

あと思ったのが、やっぱりさゆはこれまで見せてきたようにニコニコ笑いながら毒を吐く方が似合っています。

冠番組で真夏さんやろってぃーをディスったりとか、『大人のカフェ』の千秋楽アフタートークでの「3人ともそんなに好きじゃない…」発言(これ好き)とか懐かしいですね笑



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