ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

タグ:クロノグラフ



ジンとは、その歴史


個人的に好きなメーカーのひとつ、ジン。

ドイツの腕時計メーカーで創業は1961年。ドイツ空軍パイロットで飛行教官、さらに自動車ラリーのドライバーでもあったヘルムート・ジンが創設。1994年には名門IWC出身のローター・シュミットが経営権を引き継いでいます。

正式名称はSinn Spezialuhren=ジン特殊時計会社。

社名に「特殊」って入れてる時点でもうファッションアイテムじゃなく計器として時計をとらえている感じですよね。

実際にドイツの税関犯罪局や連邦刑事局、消防レスキュー部隊、対テロ特殊部隊GSG9などでも採用されており「プロフェッショナルのための道具」を超えてまさに「スペシャリストのための道具」。自らスペツィアルなんたらを名乗ってるのは伊達じゃねえぞ、と言わんばかりのガチ感。そういうとこ好きです笑

公式サイトでも「視認性、機能性を最重要視したプロユースで堅牢な作り」「身に着ける人が生涯信頼できる極限的状況でも最高の精度を保証する時計」と謳われています。

ジンのアイコン


そんなジンの中でもアイコニックなモデルがこの103。
メーカー自らが「まさにジンの基本精神を表す」と言い切っています。

アビエーションウォッチと呼ぶのかパイロットウォッチなのかわかりませんが、要するに飛行機乗りの時計ですね。
さらに細かくカテゴライズするとエアロダイバーズというんでしょうか、ブレゲのアエロナバルなどと同じように回転ベゼルと防水性能を備えたモデルになります。(防水は海軍の航空隊向けという成り立ちのためと思われます)

実際に60年代にドイツ空軍クロノグラフとして採用されたモデル155の伝統を踏襲しています。

その特徴は優れた視認性と堅牢さ。

こんもり厚く盛られた夜光プリントのアラビアインデックス。夜光ニードルハンド(先に針状の突起がある注射器のような形状)の素っ気ない針。マットなダイヤル。角ばったラグ。
ムーブメントは標準的なETA7750。横幅41mm。20気圧防水。

ここまでが共通仕様です。



基本モデルの103.B.AUTO(以下「無印」)はほぼフラットなアルミベゼルとそこからボコッと盛り上がったボックス型の強化アクリル風防が特徴。



103.B.SA.AUTO(以下「SA」)はステンレスベゼルとサファイヤクリスタル風防。ボックス型ではなくベゼルからひと続きになだらかなカーブを描くドーム型。現行ではリューズだけでなくプッシュボタンまでねじ込み式になっていますね。そしてシースルーバック。

それ以外にも特殊機能を搭載したモデルや限定モデルなどのバリエーションがあります。





既に述べたベゼルの傾斜に加え、無印はベゼルエッジまで黒いのに対し、SAその他はエッジがシルバーなのでちょっと見た目の印象が違います。全体的に基本モデルの方がクラシカルでミリタリー感強め。

これぞジン、って感じなのが前者で合わせやすいのは後者ですね。

ガシガシ使えるツール感


成り立ちはかなりクセが強いですが、実は使い勝手が良いのもこの103の特徴。

シンプルなデザインとマットなカラー、程よいサイズ感でどんな服装とも相性いいです。
無印はちょいとミリタリー感強すぎな気もしますがSAはスーツとの相性もバッチリ。(業種・職種による向き不向きはもちろんありますが)
無印で15.5mm、SAは17mmと意外に厚みのある時計ですが、装着感も悪くありません。

堅牢性と防水性能、そして少々傷がついてもそれが無骨さを増して味になるというキャラクターもあいまってガシガシ使えちゃいます。

このように男心をくすぐるモデルですが、41mmというサイズなので女性がつけても格好いいと思います。
実は一度だけこの103をしている女性を電車の中で見たことありますが、非常にクールでした。



記事作成時点での価格帯は以下の通りです。

無印はレザーベルトで定価319,000円(税込、以下同じ)。並行店での新品実勢価格は20万ちょいぐらいから。
SAのメタルブレスだと定価454,000円、実勢28万台半ばぐらい。

当サイトはアフィリエイトプログラムで雀の涙未満の微々たる収益を得てはおりますが、本文の内容は100%私の個人的な意見であり忖度は一切ございません。
中古ならばSAでも20万円以下からありますがそれほど数は多くありませんでした。
以前はかなりの本数が流通していたんですけどね。

ただちょっと前の中古はキズキズな状態(その分値段も安かった)のものが多かったです。
マイナーな頃にジンを購入するユーザーは「キズも味で格好いい」という考えの人が多かったのかもしれません。

ちなみに500本限定でリリースされた103 Klassik という3カウンター逆パンダダイヤルの超絶かっこいいモデルがあるのですが、中古市場ではほぼ見かけませんね。

まとめ


パッと見、定価で30万を超える時計には見えないかもしれません。

見た目は1980年代のデビューから変わらず。
ラグジュアリー感を身に纏ったブライトリングやファッショナブルなベル&ロスとは違い本当に「そのまんま」。

だがそこがいいい。

ここまで触れてきませんでしたが、ジンの技術力は高いんです。様々な新技術を導入(公式サイト「ジン・テクノロジー」参照)してきました。

でもそのすべてが堅牢性・耐久性・メンテナンス性を上げるためのもの。
持てる技術力のすべてを実用面に投入するというストイックさ。

そこにシビれる!あこがれるゥ!ってなもんです。

「使うためだけの時計」というジンの哲学を腕に乗せる喜びと高い実用性を兼ね備えた優秀なモデル。

それがこのSinn 103です。




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2019年は国産クロノグラフのアニバーサリーイヤー


2019年12月7日にどちらも限定1,000本で同時発売された、国産クロノグラフのアニバーサリーモデルふたつ。

SBEC005


こちらのSBEC005は「国産自動巻きクロノ50周年記念」。

国産どころか世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントではないかと言われているキャリバー6139から50年。しかし実はこのモデルのデザインはその後に開発されアンティーク市場でも高い人気を誇る6138-8000通称「61パンダ」に範を取っています。
これ、以前に「いつか手に入れたい時計」と書いたゼニスの「A384リバイバル」に似てますね。ブラックのチャプターリングにパンダダイヤル(こっちはホワイトではなくシルバーですが)、そしてクロノ針の差し色。

ダイヤル上の情報量が多いクロノグラフにおいて、視認性を確保しようとするとこうなるのでしょうか。クロノグラフの黎明期において洋の東西を問わず似たようなメリハリの効いたデザインになったというのは興味深い一致ですね。

関連記事:
独断と偏見で選ぶ!価格帯別腕時計ベストバイ⑤ 70~100万円部門【2019年版】

とはいえこちらのモデルはいわゆる現代デザイン。正直、タテ目の2カウンタークロノであるオリジナルとはだいぶイメージが違いますし、実物の印象としては現代的であまりクラシックな感じはしません。

でもこれは凄くいい。

ラグから横に張り出した美しいケース形状。にもかかわらず横幅41mmに収めたサイズ感(オリジナルは40mmのようです)。

すりばち状のチャプターリングに印字されたタキメーターと3カウンターによるギュッと凝縮感のあるダイヤル。かなり優れたデザインだと思います。



ブレスも安っぽくない。よく酷評されるプロスペックスのブレスよりむしろグランドセイコーに近いですね。ダイヤルからケース、ブレスまで仕上げの質感はかなり高く、実際に腕に乗せると非常に魅力のある時計です。

パワーリザーブ45時間の8R48ムーブメント、クラシカルなボックス型(ベゼルから盛り上がった形状)サファイアガラス、10気圧防水、そして裏蓋スケルトンまでは下のSARK015と共通の仕様になっています。

SARK015


SARK015は「国産初クロノ(=クラウン ワンプッシュクロノ)55周年記念」。
そのデザインコードを踏襲しつつ3カウンタークロノ化したモデル。


前の記事では同じ「クラウン ワンプッシュクロノ」のデザインをオマージュした3針モデルについて書きましたが、こちらは3針ではなくちゃんとクロノグラフです笑


3針モデルの記事で特徴として挙げたのは「オールドファッションで素敵な顔」「ダイヤル上の同心円」「細かい目盛りと秒印字が醸す計測機器感」「細めのベゼル」。これらの要素はすべてこちらのモデルにも存在しています。
ちなみにサイズが違うので3針モデルとのパーツ共有はしていない模様。

そのサイズは厚さ15.3 ㎜、横42.3 ㎜、縦49.3 ㎜。3針モデル同様、ちと大きい。

上のSBEC005より大きいのはいかがなものかと。
まあ同じムーブメントですから当然インダイヤルの位置は一緒。その外に配置しなければならないデザイン要素として、こちらの方が回転ベゼルもある分大きくなっちゃったんでしょうね。インダイヤルの直径を調整してどうにかできなかったんですかね。

こちらも全体に良好な仕上げでラグとか非常にいいのですが、SBEC005と比べるとそもそもステンレス部分の面積が小さいのであまり目立たないのが残念かな。

ブランディングと価格設定


どちらも時計自体は魅力的。

ただ例によって言いたいことはあります笑

そもそも「プレザージュ」「プロスペックス」にする必要ってあったんでしょうか。

個人的にはプレザージュって若いサラリーマンが初めて買う機械式時計のイメージです。
漆ダイヤルのSARW013やSARX029の印象が強いせいだと思いますが、高価なモデルでも15万くらいの感覚。

その認識からするとSARK015の385,000円(税込、以下同じ)という値段はいかにも高い。
数年前に出たプレザージュのクロノが定価20万超だった時ですら「高い」と感じましたし。

「クラウン」じゃいけなかったんですかね。その方がむしろ特別感があるのに。
(デザインオマージュのSARX069/071/073も、もちろんクラウンの方がいい)

同じくSBEC005もプロスペックスじゃなく「スピードタイマー」にすれば良かったのに。

どうせ限定モデルですぐにカタログ落ちするんだし笑

海外ではプレザージュというブランド自体に価値があるんでしょうかね。

そして価格。

定価はSBEC005は418,000円、SARK015が385,000円。
そして実勢価格は流通限限定モデルのため値引きはなしで定価と同じ。実質価格はポイント10倍想定でそれぞれ376,200円と346,500円です。

この35万から45万で買えるクロノグラフって、定価ではなく新品実勢価格同士での比較をするとなかなかの強力メンバーが揃っているんです(並行品であれば、ですが)。
(以下の価格は記事作成日、某有名並行店の楽天市場店価格です)
「スピードマスター プロフェショナル」(422,150円~)に「カレラ ホイヤー02」(391,250円~)。スピマスなら「スピードマスター38 コーアクシャル」(384,170円~)という小径のモデルもあります。

要するに40万出せばオメガとタグ・ホイヤーのフラッグシップが買えちゃうわけです。
個人的にはこの価格帯のクロノグラフで選ぶならチューダーの「ブラックベイクロノ」(399,800円~)とかタグ・ホイヤーの「オータヴィア」(調査時点で新品在庫なし)が好きですね。

セイコーさんはオメガとタグ・ホイヤーのフラッグシップが相手ってわかってます?
本気でスピマスやカレラと同じ価格帯で売れると思ったんですかね。

確かに外装のクオリティはこのあたりと比較しても引けを取らない、というか正直勝っている部分もあるでしょう。

でも、ライバルのネームバリューやブランド性、定価との差額から感じるお買い得感(これ結構大事!)なども含めると、相当分が悪い勝負のような気がします。

セイコーの価格戦略は誰もが正規新品を買うという、現実とは違う世界を見ているように思えてなりません。

これ、流通限定じゃなく2割引きで売ればよかったのに。

それならSBECは実勢価格334,400円、ポイント10倍想定で実質価格300,960円。
SARKは実勢価格が300,800円、実質価格270,720円。
前者は実質、後者は実勢でほぼ30万になります。これでだいぶ購入のハードルが下がりますよね。「ギリ30万ならなんとか…」というユーザーに訴求できると思います。

この価格帯だとライバルからオメガが消え、タグ・ホイヤーではカレラのキャリバー16搭載モデル「Ref.CBK2110」(288,250円)や「リンク クロノグラフ」(339,750円)。あとはSinnの「103」(284,260円)あたりになりますね。
個人的には40万って、完全復刻だったら多くのユーザーが迷わず(はちょっと言い過ぎですね)払える値段だと思います。

かつてのグランドセイコー復刻、SBGW033やSBGW047。そしてアンダー40万ですがファーストダイバーSBDX019のような「本気の復刻」。

どれも現在ではプレミアム価格で取り引きされているモデルです。

今回の2モデルは現代デザインなのですから歴史的価値でのプラスアルファがない。
であればこの値段はちょっと強気すぎるのではないでしょうか。

並行品や中古含め、無限と思えるほどの拡がりがある腕時計市場において「この1本を買おう」と思わせる。

考えてみれば大変なことです。

偉そうな言い方になってしまいますが、セイコーさんはせっかくいい時計を出しているのですからビジネス的に成功してほしい。そしてインバウンド顧客と既存セイコーマニアだけを相手にするのではなく、もっと多くの日本人を時計沼に突き落としてほしい笑

だからこそもう少し価格戦略でユーザーの目線に立ってほしいです。

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