ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

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前の記事ではオメガ・スピードマスターのごく簡単な歴史と、ひとつめの弱点「人とかぶる」ことについて書きました。

以下の記事内ではスピードマスターを「スピマス」、手巻きスピマスのスピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナルを「スピマスプロ」と表記しています。

俺とスピマス 後編


前編でスピマスプロ以外のスピマスでは「スピマス欲しい気分」が満たされないと書きました。
しかしだからと言って即「よっしゃスピマスプロ買うか」とはなりません。ここで個人的に思うスピマスのふたつめの弱点、「値段の割に高級感がない」ことが壁になってくるのです。

スピマスプロのロマンは「変わらない」からこそ。しかしそれは同時に「パッと見が1960年代の時計」ということです。ましてや元々その実用性こそがNASAに評価されて採用になったわけですから、ラグジュアリー感など皆無。

マットな黒文字盤に白い夜光のインデックスと針という視認性を最大限に高めるデザインには煌めきも艶やかさもありません。(このあたり、Sinn103の記事で書いたことと共通していますね)

書いていて気づきましたが、グランドセイコーの真逆。
GSの特徴である立体感あるインデックスも多面カットの針も深みのある光沢をたたえた文字盤も、すべてスピマスプロに加えたら単なる蛇足であり原理主義者の逆鱗に触れます。

当然オメガもその辺りは承知していてずっとデザインは変えていない(高級感はスピマスの別シリーズで追及している)のですが、ここでひとつ問題が。

腕時計全体の価格帯が上昇を続けているのです。

私はさんざんセイコーダイバーの価格上昇について文句を書いてきましたが、正直スイス(やドイツ)製の時計に比べれば微々たるもんです。
ユーザーにとっては悲しいことに、腕時計はとても高価になりました。メーカー曰く「原材料費の高騰のため」。ですがまあ要するにそれでも買うどこぞのマネーの人たちがいるからですよね。

せめてもの罪滅ぼしか、各メーカーは自社プロダクトに高級感を与えるリファインを加えてきました。加工技術自体の向上と相まって素晴らしい仕上げの時計が増えたのも事実ではあります。

ロレックス・サブマリーナデイトがセラミックベゼルを採用したRef. LV116610LNあたりからラグジュアリー感を高め今ではすっかり顔も値段も(そして入手しにくさまで!)高級時計になってしまったのがいい例ですね。

当然のようにスピマスプロも値段は他メーカー同様に上げます。でもデザインは変えられない…ということでオメガはケースの仕上げ精度やブレスの質感を上げるに留めてきました。(それに加えて収納ボックスを豪華にしたりストラップ等の付属品をつけたりもしていますが)

同じ歴史的デザインを踏襲するモデルでも基本デザインを変えずに素材・仕上げ・細部のリファインを重ねることにより高級化に成功したサブ。それに対し今なおNASA公式時計であるためヘサライト風防を捨てることさえ許されない(バリエーションとしてサファイヤクリスタル風防のモデルはありますが)スピマスプロは、ユーザーに伝わりやすい高級化を遂げることが事実上不可能だったわけです。
まあサブとは元々定価でふた回り、並行価格では半分以下ぐらいの差がありましたから並べて論ずるものではないのですが。

結果的に私にとってスピマスプロは「ロマンも歴史的価値もわかるけど、高い」という印象でした。

時計沼にはまりだした頃の現行機はまだRef. 3570.50で、ちょうどそのすぐ後ぐらいにRef. 311.30.42.30.01.005にモデルチェンジして定価が約10万円上昇したのもそう感じる理由のひとつではあるのですが。

マイ・ベスト・オブ・スピマス


さて。
長すぎる前置きが終わり、ここでようやく登場です。

ファーストオメガインスペース(Ref. 311.32.40.30.01.001)
長いので以下「インスペース」と略します。

発売は2012年。
オメガの公式サイトはこのモデルについてこう説明しています。

 宇宙を旅した初のオメガ ウォッチ「スピードマスターCK 2998」。1962年、マーキュリー計画の「シグマ7」ミッションで、宇宙飛行士ウォルター・シラーがプライベートで購入して身に付けた時計です。
 シラーの歴史的なミッションから50年。オメガの時計が初めて宇宙へ行ったことを記念して、新しいモデルが誕生しました。敬意を込めて、わずかなデザイン変更を施した21世紀仕様の最新ムーンウォッチ。

CK2998=スピードマスターの2ndモデルです。
NASAに正式採用されるより前に初めて宇宙に出たオメガの時計なのでまさしく「ファーストオメガインスペース」。(それに「ムーンウォッチ」も冠するのはいかがなものかという気もしますが笑)

こいつのどこが私の琴線に触れるかというと、「スピマスプロのデザイン上の不満を解消」していながら「単なるデザインバリエーションではなく歴史的モデルの復刻」でありしかも「人とかぶらない」ところ。

デザイン上のスピマスプロとの相違点はまず何と言ってもアルファ針。
時分針、そしてインダイヤルの秒針にも採用されています。
現在まで受け継がれるおなじみのバトンハンドは次の3rdモデルから。1stはブロードアローですのでこのアルファハンドは2ndだけの意匠なのです。

そしてスッと伸びたラグと、リューズガードのない左右対称のケース。さらに12時位置のオメガマークがアプライド。NASA正式採用前なので「PROFESSIONAL」の文字もありません。そこに白いステッチの入ったブラウンレザーのベルトを合わせています。
リューズガードはNASAの要望によるものなので4thから。ちなみに「PROFESSIONAL」も同じく4thからです。

ラグやケースサイドの仕上げの質感もかなり良いですし、スピマスプロより2mmちょい小ぶりな横39.7mmというサイズも嬉しい。

クラシカルかつスポーティでありながらどこかドレッシー。

まぎれもなくスピマスでありながら、そこにドレス系の要素が違和感なく融合した端正な顔立ち。「高級感」まではさすがに言い過ぎかもしれませんが、個人的に凄く好みです。
オメガ公式にあるJBカラーのNATOベルトに換装した写真が超絶格好いいですよね。

風防はヘサライトではなくサファイヤクリスタル。個人的にはこの方がむしろ嬉しいし、「完全復刻」を謳っていないので正しい判断だと思います。
敢えて言えば防水性能が50mなのが残念ですが、まあ正直スペックを云々するレベルの時計ではないと思います。

繰り返しになりますがもう一度まとめると、

1861搭載の手巻きスピマスでなおかつ人とかぶらず、無骨さ一辺倒ではない綺麗な顔立ちでしかも歴史的デザインの復刻。

まさにマイ・ベスト・オブ・スピマス。


さて、発売後9年も経過したこの時計を今回取り上げたのには理由があります。

2021年1月、年明け早々にスピマス界隈にビッグニュースが流れました。

スピマスプロ、7年ぶりのモデルチェンジ。
しかも24年ぶりに新型ムーブメント「3861」へ変更。

これにより1861搭載の現行スピードマスターは生産終了となる可能性が高まりました。

記事作成時点で既にインスペースはほとんど市場になさそうです。

定価は583,000円(税込、以下同じ)ですが2021年3月20日楽天市場調べでは中古で468,000円~、新品は569,800円でした。

ちなみにスピマスプロも新品はかなり市場から消えています。元々の流通量が多いので中古にはまだ品がありますがやはり値段は上昇している模様。

まあ来年2022年でインスペース発売10周年。すなわちシラー60周年なので3861搭載のニュー・インスペースが出る予感でいっぱいですが。果たしていくらになることやら笑

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スピードマスターとは、その歴史(を語り出すとものすごく長くなるのでごく簡単に)


オメガ・スピードマスター(以下「スピマス」)。
時計好きなら知らぬ者はいない、ビッグネーム。

オメガのアイコン。そして世界一有名なクロノグラフではないでしょうか。
知名度だけならロレックス・デイトナと互角以上ではないかと。

伝説に彩られたその歴史。

NASAが大気圏外の船外活動での利用を認定した唯一の時計であり、月面着陸プロジェクトで正式採用され、人類初の月面着陸したアポロ11号の船員が月面で装着。映画にもなったアポロ13号の生還劇においても重要な役割を果たした時計です。

その当時から変わらぬ基本デザインとムーブメント設計を保ち続ける手巻きスピードマスターにオメガは「プロフェッショナル」を冠し「ムーンウォッチ」と呼んでいます。
公式サイト上では「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」という表記ですが「スピマスプロ」という略し方が一般的かと思います。オメガブティックに行くと店員さんは「ムーンウォッチ」って言いますね笑

スピマスと名のつくシリーズには膨大なバリエーションがありますが、このスピマスプロこと手巻きスピマスこそがまごうことなきフラッグシップ機です。

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俺とスピマス 前編


いきなりですが、元々私にとってスピマスは「興味のない時計」でした。

なぜなら 1.人とかぶる 2.値段の割に高級感がない ため。

まず「人とかぶる」について。

そもそも私はロスジェネの悲しい性として「人と同じが大嫌い」なんですよ笑
noteの記事でその辺を書いているのでよろしければそちらもどうぞ)

そんな観点からすればスピマスなんて真っ先に選択肢から外れます。なんで何十万も出して職場のあの人と同じ時計をしなきゃいかんのだ、って話ですよ。

まあそれを言い出したらロレックスもタグ・ホイヤーもグランドセイコーも怪しいのですが、スピマスは特にその傾向が強い。

なぜなら、シリーズの中でも圧倒的にスピマスプロが人気だから。

個人的な経験から言えば「全く同じデザインの時計をしている人を見る確率」はロレックス・サブマリーナデイト、同じくエクスプローラ1、そしてスピマスプロが高いように思います。

しかし。

時計沼にはまってその奥深さを体感していくうちに、時計の好みって変わる…というか広がるじゃないですか。

ドレス系に惹かれていたのが気づけばミリタリーが1本欲しくなったり、ダイバーズもいいなとかやっぱりクロノグラフは男のロマンだよなとか。

私も時計沼にはまって3周ぐらい回ったところで「あ~、やっぱスピマスってかっこいいよな」とか思うようになりました。


とはいえ人とかぶることに変わりはない。そこでムーンウォッチ以外のスピマスを物色し始めるわけです。

ただ暴論を承知で言えばスピマスプロ以外のスピマスって「ただのかっこいいクロノグラフ」なんですよね。

いや、これはそもそも逆でスピマスだけが特殊。
「宇宙に行ったのと同じ時計」というロマン込みでお金を払っている部分がある気がするんです。

歴史的モデルの完全復刻はちょいちょいありますが、ほぼそのままの形、しかもムーブメントの基本設計まで同じで何十年も生産され続けてきたというのはちょっとスピマス以外に見当たらない。現在に至るまで風防がヘサライト(強化プラスチック)なぐらいですし(※)。
※衝撃を受けると亀裂が入る=割れて飛散しないという性質により無重力下での安全性が高いため採用されている

すごく変な文章になりますが、スピマスプロ以外のスピマスは、スピマス内ではなく他のクロノグラフと比較すべきだと思うんですよ。

CK2998の限定モデル(Ref. 311.32.40.30.02.001)とかダークサイドオブザムーン(Ref. 311.92.44.51.01.003)とかめちゃめちゃ格好いいですけども。個人的にはどこか「これだったらスピマスでなくてもいいじゃん」という気持ちが頭をよぎるんです。いちクロノグラフとしてゼニスやブライトリングやタグ・ホイヤーと比べた結果として買うべきものだよな、というか。

スピマスを1本欲しくて検討していたはずなのに気がつけば違う場所に来てしまった感覚になるんですよね。
歴史的デザイン、という意味ではファーストレプリカ(Ref. 3594.50)とか同デザインの50周年記念(Ref. 321.10.42.50.01.001)、あるいはデザインコード的には引き継いでいる’57コーアクシャルのブロードアロー仕様(Ref. 331.10.42.51.01.002)もかっちょいい。ただこの辺も「歴史はあるけど宇宙には行っていない」というエクスキューズがつくんですよね。
まあファースト系でいえばトリロジー(Ref. 311.10.39.30.01.001)は横径38.6mmというサイズ感にトロピカルダイヤルで凄く惹かれますね。ずっとプレミアム価格が続いていましたが記事作成時点では中古で70万円ぐらいまでは下がってきていました。
(それにしてもなぜにオメガのリファレンスナンバーはこんなにも長いのでしょう。バリエーションが多いからか)


…ここまで書いた時点で結構な文字数になってしまいました。

まだ本題である「ファースト オメガ イン スペース」にたどり着いていないのですが笑、記事を分けます。


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