ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

タグ:大人計画

キレイトリミング2
この記事は舞台『キレイ − 神様と待ち合わせした女 − 』の内容に関するネタバレを含みます。

現実も舞台の上も時は流れる


キャストの皆さんについて印象に残ったことを書きます。

まあそもそも個性的な役者さんばかり。しかもそこに超強烈なキャラクターをかぶせられているのでなんならもう全員印象的なのですが、客演の男性陣数人をピックアップします。

まずは青年ハリコナの小池徹平さん。

5年前の前回再演時では少年時代のハリコナを演じた小池さん。それが時を経て青年ハリコナになったのですから前回も観劇された方には嬉しいキャスティングでしょう。
その表情、ポーズ、立ち居振る舞いすべてが実にイカレたキザ男かつゲイでお見事。常に流し目なのが特に良かったです。あれ疲れるんじゃないかな。
そして頭脳明晰になったのにそこはかとなく見え隠れする愚かしさがまたなんとも彼の中にいる少年ハリコナを感じさせて愛おしい笑

その少年ハリコナは神木隆之介さん。

言わずと知れた超絶売れっ子ですが、これが初舞台だそうです。
個人的には天真爛漫に見えて企んでいる役のイメージが強いのですが、ハリコナはド天真爛漫。『俺よりバカがいた』を歌う姿の楽しそうなことったら。
でも出征前夜にケガレにプロポーズするシーンでは幼くて優しい繊細な愛の形を表現していてさすがという感じでした。

そしてダイズ丸。

いや、恥ずかしながら観ている間はずっと流れ星のちゅうえいさんが演じていると思ってました。「すげえな、ちゅうえいってこんなに演技できるんだ」って。マジです。
帰宅後に確認したら橋本じゅんさんという劇団☆新感線の看板俳優さんだったのですね…大変失礼しました。

戦場で目をまん丸く見開いてドタバタをやる姿が凄くちゅうえいっぽかったんですよね。そこから昏睡状態に陥ったケガレをかいがいしく看病する姿、そして大往生前の最終形態での悟り切った表情。
「さっさと食べられたい」以外何もなかったダイズ丸が「ケガレのお世話をしたい」という意志を持ち、子孫を残したいという欲(欲望ではなく)を持ち、ダイズ兵では誰も感じたことのない充足感を覚える。そんな3形態の移ろいをごく自然に演じ分けられていて素晴らしかったです。

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ケガレがキレイに変わる瞬間


そして主人公のケガレを演じた我らが生ちゃん、生田絵梨花。

ケガレは映画『道』のジェルソミーナのような「聖なる愚者」ではなく「すべてわかっていたけれどあまりに辛すぎるので記憶を閉じ込めるために別人格を作り上げた」パターンです。いわゆる内在性解離でしょうか。

肝となるのは落差。

どれほどピュアに「何も知らないケガレ」を演じられるか。
そして記憶を取り戻した(取り戻してしまった)瞬間の表情。
その切り替え、その落差こそがこの役のほとんどすべてだと思います。

そのために重要なのが一幕。
いかに純真無垢で観る者に「可愛い」「微笑ましい」という印象を強烈に与えつつ、どこか狂気や危うさを感じさせることができるかがポイントになります。

そして、さすがは生田絵梨花。

見事に「純真無垢でありながらクレイジーさがにじみ出る」ケガレでした。

彼女自身、普段から「なんで?なんで?」と聞きたがっていつもメンバーを当惑させるらしいので、好奇心旺盛な演技はある意味自然体でいけたように思います。
また『乃木坂って、どこ?』『乃木坂工事中』で何度もバナナマンに対して繰り出してきた「すっとぼけた表情」も糧になったに違いありません笑

そしてクライマックスでのシリアスな演技。ずっと少女だったケガレが大人の女性のキレイに変わった時の、美しくて逞しい表情。
これまで数多くの作品で様々な女性を演じてきた生ちゃんは「自分を愛してやることに決めた」女性の顔を凄く自然に、そして堂々と見せていました。

ただ、井上小百合もこういうの超得意なんですけど笑

『夜曲』で演じたサヨちゃんがかなり近い、というか上の文章(ピュア→記憶を取り戻した表情の落差)だけ見ればほぼ同じですね。

…とこれは余談です。

話を戻すと、生ちゃん得意のコミカルな演技+本人の持つ愛くるしさ+ミュージカル仕込みの運命的な女性の顔がうまくマッチした当たり役だったと思います。

大人計画という新たなフィールドにまで活躍の幅を拡げた生田絵梨花。

期待にたがわぬ主演女優ぶりでした。


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キレイトリミング2
の記事は舞台『キレイ − 神様と待ち合わせした女 − 』の内容に関するネタバレを含みます。

2019年12月、Bunkamuraシアターコクーンで行われた『キレイ』を観劇してきましたのでレポートします。

嫌悪感とメッセージと


大人計画大好き人間である井上小百合が、その中でもトップクラスに好きな作品とのこと。

「いつかケガレを演じたい」とまで言われりゃ、そりゃ観てみようかなという気になりますよね。チケット取るのがめちゃめちゃ大変でしたが笑

あらすじ


三つの国に分かれ、100年もの間、民族紛争が続く“もう一つの日本”。
その争いのさなか、民族解放軍を名乗るグループに誘拐され、監禁されていた少女(生田絵梨花)が、10年ぶりにソトの世界に脱出する。

すべての過去を忘れた少女は自ら“ケガレ”と名乗り、ダイズでできている兵士“ダイズ兵”の死体回収業で生計を立てているキネコ(皆川猿時)たち“カネコ組”と出会い仲間に加わる。回収されたダイズ兵を食用として加工するダイダイ食品の社長令嬢・カスミ(鈴木杏)と奇妙な友情で結ばれていくケガレ。戦場をうろつき、死体を拾って小銭を稼ぐ、そんな健気なケガレを見守るのは成人したケガレ=ミソギ(麻生久美子)だった。

死ぬことに憧れつつもなかなか死ねないダイズ兵のダイズ丸(橋本じゅん)、頭は弱いが枯れ木に花を咲かせる能力を持つハリコナ(神木隆之介、成人後:小池徹平)、誘拐・監禁することでしか女性と一緒にいられないマジシャン(阿部サダヲ)らと出会い、過去、現在、未来が交錯する時間のなかで、ケガレは忘れたはずの忌まわしい過去と対決することになる。
公式サイトより引用)


とてつもなく露悪的。

個人的には設定も描写も生理的に受けつけない部分がいくつかありました。

大枠では反戦なのでしょう。

死んだ兵士を食用にするという行為を「ダイズ兵」というナンセンスでちょっとだけオブラートに包んで(いや包めてないですけど)戦争という極限状況における人間を描いたのかな、と思います。

単なる兵器兼食料だったダイズ兵のひとつに冗談で生殖機能をつけたら自我を持ち、徐々に人間らしさを身に着ける。さらにそのダイズ丸と主人公のミソギが子をなす。
この展開も正直嫌悪感を覚えます。

ただこれも、戦争において個人などというものは存在せずに敵を滅ぼすための道具とされてしまうが、そんな中でも家庭を持ち子をなし生命をつなぐことによって人は人たりうる、というメッセージのような気もします。


大人計画の舞台を観たのは初めてで、松尾スズキさんがどれほど作品にメッセージを込める方でどういう創作方法なのかは知らないので、的外れな見方かもしれません。

明確に伝えたいことがあってそのための装置として物語を用いるのか
物語のアウトラインを思いついてそこに肉付けしていくのか
なにかキーワードやビジュアルイメージのようなものが閃いてそこから物語を生むのか

その辺りが気になってご本人のインタビューをいくつか見ましたが「こだわっているのは笑い」と煙に巻いておられました。

「兵器として生み出された悲しい存在」というモチーフは割とよく見ますが、どうやったらそれを「ダイズ兵」にしようなんて思いつくんでしょうね。不思議。

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ゼロがいい ゼロになろう


もうひとつ、全体を通して提示されていたのは「全てはプラマイゼロ」という視点でした。

ダイダイ食品の社長令嬢でありながらダイズ兵の食用加工反対運動を支援するカスミ。

盲目だったジュッテン(岩井秀人)が目が見えるようになった瞬間に徴兵されて戦場に連れていかれたり。

ハリコナは頭に銃弾を受け頭脳明晰なゲイに変貌。しかしそれと同時に純粋さも花を咲かせる能力も、かつてケガレと心が通じ合った理由をすべて失ってしまう。
それにも関わらず彼とミソギは結婚する。

さらに最後には宇宙で蜂に刺され再び昔の彼に戻るが、そこで咲かせた花は自分の命を散らす花火。それを見て美しいと思うミソギ。

幸福と不幸が猛烈な勢いですれ違う、考えられないほどの皮肉の連続。

そしてケガレ=ミソギ自身もまた、忌まわしいく消し去りたい過去と向き合ったことにより深く深く傷つきますが、同時にそれによって新しい生きる力を得るのです。


毒々しくて猥雑で悪意に満ちていて、そこにある救いもほんのちょっと。
個人的な趣味からすると、ネガティブの量に対してポジティブ少なすぎだなあとは思います。

でも、なんかやっぱり最後は感動しちゃいました。

人間賛歌。

私の大好きな『レキシアター』と通底するものは一緒ですね。

関連記事:
【井上小百合舞台レポ】笑いとシリアス、余韻と感動。もの凄い地力の力業 ~愛のレキシアター「ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ」①

まあ「どんなちっぽけでささやかでみっともなくても人生は美しい」の『レキシアター』に対し、『キレイ』は「どんなに汚辱にまみれた人生であっても、それでも生きることは最高だ」ぐらいの違いはありますけれど。


続きます。

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