前の記事では見事な実績を積み上げた山下美月の乃木坂人生を振り返りました。
関連記事:
今回はそんな彼女の心の内に分け入ってみたいと思います。(『英雄たちの選択』ですね笑)
アイドルを演じ切った
スーパープロフェッショナルアイドル。
個人的に彼女のことをそう呼んでいました。
いきなり凄く失礼な言い方になるんですが、美月はどちらかと言えば髪型やメイクに「注文がつく」タイプでした。
2017年10月『見殺し姫』と2018年6月と9月の『ミュージカル セーラームーン』という村内舞台。
どちらも変なカツラをかぶらされて、まあ今だから言えますがなかなか大変なことになっていました。
正直、スタイルも決していいわけではありません。
にもかかわらず、乃木坂の活動において(変なカツラさえなければ)常に「ちゃんと可愛かった」。
そこが凄いと思うんですよ。
自分がどうすれば可愛く見えるのか必死に研究してそれを見つけ、少しずつビジュアルが変化していく年齢においてもずっとアジャストし続けた。
まさにプロフェッショナル。
「釣り師」にして「小悪魔」でもありました。
(同期から「控室で壁にゴンゴン頭をぶつけながら落ち込んでいる」ことをばらされるネガティブキャラだというのに!)
例えば2017年11月放送の『乃木坂工事中』内「恋愛模擬テスト」。
メンバーが恋愛のシチュエーションに関するテストに回答し、それを婚活のスペシャリストの先生が採点するという企画。岩本蓮加が「じゃーん!」で世界のハートを鷲掴みにしたやつですね笑
美月はそこで高得点を連発し「小悪魔」「恋愛マスター」という称号を得ます。
私の勝手な思い込みですが、「釣り師」って秋元真夏をはじめとしてどちらかと言えば親しみやすいルックスのメンバーが多いじゃないですか。
「近寄りがたい美人なのに気さく」は白石麻衣がいましたが、美月は「近寄りがたい美人で釣り師」でした。
でも、彼女感はなかった。
初期はともかく、20歳を超えたあたりからはガチ恋製造機ではなかったと思います。
1st写真集発売時のインタビューで彼女は「アイドルを極めたい」そして「アイドルって疑似恋愛」という発言をしています。
私はこの言葉をこう理解しています。
山下美月は目の前のファンに対し全力で「私を好きになってほしい」と思っていたし、自分でも目の前のファンを全力で好きになろうとした。
明らかに作っているけれど、それと同時に間違いなく全力を尽くしている。
そんな信頼感に基づくある種の共犯関係にファンを引きずり込んだのが彼女の凄さ。
これもまた、プロフェッショナルです。
当サイトはアフィリエイトプログラムで雀の涙未満の微々たる収益を得てはおりますが、本文の内容は100%私の個人的な意見であり忖度は一切ございません。
貫き通した負けず嫌い
私の山下美月観を決定づけたひとつの記事があります。
『BRODY』誌2017年10月号に掲載された彼女のインタビュー。
2017年の夏、すなわち『逃げ水』の夏です。
「近寄りがたいイメージを持たれがちなので、普通の人間として見られようと努力してきた」
「自分はこういうアイドルになりたいという理想になりきろうとしている自分が、本当の自分」
「アイドルって人間性を好きになってもらわないと続かない」
「先輩たちの空いた席に座るんじゃなくて、横にもうひとつ新しい席を増やさなきゃいけない」
「ファンの人から見たら、私が自分で必死に這いあがっていく姿の方が面白い」
「つねに明るくてニコニコしていて、芯の強い人が理想。そんなアイドル像にどれだけ自分が近づけるかの戦い」
(この号、美月ファンの方は古本屋で探しても読んでいただきたいぐらい必読の内容です)
当時18歳だった彼女はもの凄く「わかっている感」を出していました。
私にはそれが「賢しら」であり「懸命に背伸びしている」ように見えました。
しかし今回改めてその記事を読み直して感じたのは、空恐ろしさ。
7年近く前。加入してまだ1年にも満たない頃。
普通、この年齢の時に考えていたことなんてどんどん変わっていくものです。(我々ファンはついそれを忘れて「前に言っていたのと違う」などと思いがちなのですが)
そして自身もグループも凄い勢いで変動していたのですからなおのこと。
しかし彼女の場合、ほとんど「現在の山下美月の言葉」として呼んでも違和感がありません。
ちょっと異常です。
グループ加入当初から持っていた自分の目指す姿を、美学を。
山下美月は貫き通したのです。
さらにこの記事の最後、彼女はこう語ってインタビュアーを驚かせます。
「今日のインタビューはアイドル・山下美月としてしゃべっているのですべてアイドルとしての発言だと思っています」
そして「リアルな山下美月の本心は?」に
う~ん…本当に…負けたくない
(なにに対して?)
いろんなことに、です笑
超ド級の、負けず嫌い。
これまで私はずっと「よだもも」と「くぼした」、無垢の天才vsエリートという図式でこの4人のことを語ってきました。
美月はずっとよだももという「ナチュラルボーン・アイドル」に対して「敵わねえなあ」と思っていたように見えました。
そして(これまで敢えて書かずにきましたが)「くぼした」としてくくられる久保史緒里に対しても、本当はずっと「敵わねえ」と強い劣等感を抱いてきたように思います。
久保ちゃんの歌唱力、舞台度胸、儚さ。
そんな彼女に対し自分は「持たざる者」だと。
あなたはこちら側のつもりかもしれないけど違うよ、と。
でも、だからこそ美月は誰よりも自分を追いこみ続けることができたのではないでしょうか。
しかしグループ内での序列が上がるにつれ、彼女を突き動かしてきたそんな劣等感も薄らいでゆきます。
2022年の頭ぐらいからでしょうか、弛緩した…は言い過ぎですが目じりが緩んだ表情が多くなったように思います。
齋藤飛鳥と並ぶ位置に来て、彼女を突き動かしてきた負けず嫌いのガソリンがなくなったように見えました。そしてそれは何というか、素敵なことでした。
その飛鳥に「船長」と言われてしまったことも決定的でした。
まあ、あの飛鳥ちゃんが「コンプレックスこそが山下美月のガソリン」であることに気づいていないはずはありません。
それでもなお「船長」と言ったのは、恐らくこういうことなのでしょう。
どうせ卒業したら芸能界の荒波にもまれてまたコンプレックスまみれになるんだから、卒業するまでの残り時間ぐらいはそういうの抜きにした時間を過ごしてみなよ。
私はちょっと齋藤飛鳥を信頼しすぎているかもしれませんが笑
いずれにせよ尊敬する先輩から「乃木坂丸の舵を頼んだよ」と言われちゃったので、さすがにそこから1年はグループに留まります。
その2023年に残ったふたつの宿題「飛鳥さんを見送る」「久保との物語に落とし前をつける」を済ませて。
いよいよ本当に「やりたいことがなくなった」のではないでしょうか。
本当に、本当にやり切っての卒業でした。
卒業後の彼女は間違いなく俳優として歩んでいくでしょう。
3年後、5年後、10年後。
「なんかいろんなドラマでしょっちゅう見るよね、あの眼力強い女優さん」
そう言われているに違いありません。
山下美月さん、8年近くもの間、本当にお疲れさまでした。
◇
『2020年の乃木坂46』 kindle版
過去に当ブログに掲載した記事を再構成し加筆したもの。
総文字数84,000文字、加筆部分だけでも10,000文字以上のボリュームでブログをご覧になった方にも楽しんでいただけることと思います。
「今にして思うこと」は各記事の末尾に「追記」という形で新たに文章を加え、さらに書き下ろしとして4期生の初冠番組であった『乃木坂どこへ』を振り返っています。
リンク
Kindle本が読み放題になる Kindle Unlimited の新規登録は こちら から。
初めてご利用の方は30日間の無料体験が可能。期間終了後は月額980円です。
また、note上で乃木坂46に関する有料記事を公開しています。どちらも無料で読める部分がありますのでぜひご覧ください。
『アンダラ伝説』¥300
伝説のアンダーライブ2ndシーズンを題材にしたセミドキュメンタリー小説。あの頃の熱量を叩き込んだ渾身の50,000文字です。
マガジン「2019年の乃木坂46」¥200
過去に当ブログに掲載した記事を再構成し加筆したもの。総文字数10万文字、加筆部分だけでも22,000文字以上のボリュームでブログをご覧になった方にも楽しんでいただけることと思います。