2020年6月に下北沢本多劇場で行なわれた舞台『齷齪とaccept』の配信を観劇しましたのでレポートします。
アーカイブ配信なしのリアルタイム視聴のみ。ビジネス的には明らかにアーカイブありの方が望ましいのにそうしないのは「舞台は一期一会」というこだわりゆえでしょうか。
We are back!!
2020年6月1日より下北沢の本多劇場が再開されました。
小劇場の聖地。
私も舞台を観に行くようになる前からその名前ぐらいは知っていました。
行なわれるのは11人の演者の日替わりによる「一人芝居の無観客生配信」。
そしてその中に「井上小百合」の名前がありました。
役者になりたいのに「君には無理だ」と言われて悔し涙を流した少女が、10年後に小劇場の聖地に、かねてから彼女自身「あそこに立ちたい」と言っていたその場所に立つ。
それだけでも感動的なのに
演劇の灯を消すな
多くの人のそんな願いを込めてこの状況で行なわれる公演に選ばれた。
こんなシナリオ、誰も想像できないですよね。
「元乃木坂」の集客力を期待して。もちろんそれもあるでしょう。
ただ本多劇場に再び灯がともる日にその場にいることを許された。いやそれどころか請われてその場にいるというのはもうそれだけでさゆ推しとしては感極まりそうです。
これだから井上小百合推しはやめられない笑
演じたのは『齷齪(あくせく)とaccept』。
『じょしらく』の川尻恵太さん脚本(そもそも「DISTANCE」全体の企画も川尻さんです)で、初演は同じく『じょしらく』の『弐』で共演した小山めぐみさん。演出のニシオカ・ト・ニールさんも『じょしらく』で演出助手を務めていた方。
ちゃんと、乃木坂としての彼女の日々とつながっているんです。
かなえたい夢があるのに、それに向かって進んでいる感じが全然なかったアイドルとしての最初の数年間。それでも歯を食いしばって歩き続けた本人と、それを支えた周りの人々へのご褒美のような今回の抜擢。
まじめにやればいいことあるもんだな。
そんな感慨すら覚えます。
Baby Goodbye
そして、舞台に立った井上小百合はいつものように我々を驚かせてくれました。
あらすじを一言でいうと、戦争に行って帰ってこない作家の夫を50年間待ち続ける女性の話。
基本的には主人公の若い時から老婆になるまでを演じるのですが、一人芝居かつセットも最小限で衣装替えもなしという制約の中で、夫の書いた小説や回想シーンの登場人物に至るまで様々なキャラクターを流れるように演じ分けていきます。
『奇跡の人』のヘレン・ケラーとサリヴァン先生の名シーンを毒たっぷりに演じたり、「ヤギのマネ」や「恋に落ちたダンス」が気持ち悪い動きで最高に可愛かったり。
個人的に一番良かったのは『ジャック・ザ・リッパーふざけるな』の歌でのすっとぼけた表情ですね。
前半はコメディエンヌとしてのさゆの魅力が存分に発揮されていました。
やがて後半に差し掛かり物語が徐々に趣を変えてゆくにつれ、私はタイトルの意味が分かったような気がしました。
「齷齪と」=懸命に、「accept」=受け入れる。
「齷齪と」は「悪戦苦闘」も掛けているような気がします。
つまり「受け入れがたいことを懸命に受け入れる」姿を描いているのではないでしょうか。
受け入れがたいこと、それは「あなたの不在」。
想いが強すぎるからこそ、それに50年もかかってしまった。
そんな悲しくて滑稽で愛おしい人間の姿。
辛いからふざける。泣きたいからはしゃぐ。
前半のドタバタな演技が物語の後半に見事に収束していく様は圧巻でした。
そしてラストシーンで表現されていたのはふたつの相反する感情。
ひとりでいることの絶望的な孤独と
ひとりでもひとりじゃないと感じられることの暖かさ。
この両方を自分の中に感じた時、やっと主人公は夫の不在を受け入れることができたように思います。(本当は死んだのは夫じゃなくて主人公だったのかな?と思わせる余韻でしたけど、どうなんでしょう)
上で書いた「悲しくて滑稽で愛おしい人間の姿」。そのすべてを表現した井上小百合。
めちゃめちゃ気合入っててめちゃめちゃ強い思いでこの舞台に臨んでいることが観ている者に伝わる、素晴らしい演技でした。
終わった後の噛みしめるような「楽しかった…」がまた良かったですね。
2020年7月6日に井上小百合公式Youtubeで公開された「【井上小百合】「アイドル卒業後の女優業に密着」でこの公演の一部やリハーサルの模様を観ることができます。
川尻恵太さん、そして新たな所属事務所であるシス・カンパニー代表の北村明子さんのコメントも非常に興味深いのでぜひ一度ご覧になることをお勧めします。
そして「DISTANCE」も第2弾として8月に客席稼働率を下げての有観客+配信という形で開催することが発表され、今回も井上小百合は出演者に名を連ねています。
同じ『齷齪とaccept』なのか他の演目なのかはまだわかりませんが、こちらも非常に楽しみです。
◇
『2020年の乃木坂46』 kindle版
過去に当ブログに掲載した記事を再構成し加筆したもの。
総文字数84,000文字、加筆部分だけでも10,000文字以上のボリュームでブログをご覧になった方にも楽しんでいただけることと思います。
「今にして思うこと」は各記事の末尾に「追記」という形で新たに文章を加え、さらに書き下ろしとして4期生の初冠番組であった『乃木坂どこへ』を振り返っています。
リンク
Kindle本が読み放題になる Kindle Unlimited の新規登録は こちら から。
初めてご利用の方は30日間の無料体験が可能。期間終了後は月額980円です。
また、note上で乃木坂46に関する有料記事を公開しています。どちらも無料で読める部分がありますのでぜひご覧ください。
『アンダラ伝説』¥300
伝説のアンダーライブ2ndシーズンを題材にしたセミドキュメンタリー小説。あの頃の熱量を叩き込んだ渾身の50,000文字です。
マガジン「2019年の乃木坂46」¥200
当ブログに掲載された記事を再構成し加筆したもの。総文字数10万文字、加筆部分だけでも22,000文字以上のボリュームでブログをご覧の方にも楽しんでいただけることと思います。
当サイトはアフィリエイトプログラムで雀の涙未満の微々たる収益を得てはおりますが、本文の内容は100%私の個人的な意見であり忖度は一切ございません。
【井上小百合舞台レポ】たとえ今日が最後だとしても~リトル・ショップ・オブ・ホラーズ①
【井上小百合舞台レポ】それぞれの良さを持ち寄って~天国の本屋①
【井上小百合舞台レポ】そこにある終焉に、人はどう向き合うか~フラガール − dance for smile –①
【井上小百合舞台レポ】美しく完成された世界、だが決して閉ざされてはいない~Little Women~若草物語~①
【井上小百合舞台レポ】叫んだのは、怒りと憎しみと愛おしさ~TXT vol.1「SLANG」①
【井上小百合舞台レポ】笑いとシリアス、余韻と感動。もの凄い地力の力業~愛のレキシアター「ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ」①