ロスジェネはえてしてこだわりすぎる

タグ:DISTANCE

deux補正2
2020年8月に下北沢本多劇場で行なわれた舞台『ワイルドなサイドを行け!』の配信を観劇しましたのでレポートします。

配信を観てからなんと1年後の記事ですが、それには理由があります。

正直、ピンとこなかったんですよ。

観た当時に箇条書きレベルまでは書いていたんですが、自分のこの作品に対する評価がどうにも定まらなくてどうしたもんかなあと。

ようやくその辺りの整理がついたので記事にしました。

配信でドタバタは難しい?


凄く期待していました。

コロナ禍の真っ只中で「劇場の灯を消すな」という関係者の熱い想いで実現した「DISTANCE」第1弾。小劇場の聖地・下北沢本多劇場。無観客の一人芝居。
しかも井上小百合にとっても乃木坂卒業後の初仕事。

これでもかとばかりに盛り上がる条件が揃っていました。
そして井上小百合はこれまでと同じように我々の期待を見事に超えてみせます。

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本当に素晴らしい公演でした。

その好評を受ける形で実現したのであろう今回の第2弾。観客数は絞っているものの有観客。
しかも共演の小林顕作さんは舞台『帝一の國』で演出を務めた方。今回も脚本、演出も兼ねておられます。
第1弾の川尻恵太さんに続き、乃木坂時代からのご縁。嫌でも期待が膨らみます。

でも、ピンとこなかったんですよ笑

ざっくりあらすじを書くとこんな感じ。

 駆け出しの若手女優(井上小百合)はドラマの現場で上手くいかずにムシャクシャしながら帰宅。
 発泡酒を飲みながらマネージャーに渡された「一流女優になるための秘訣」DVDを再生するも、そこに現れたのはバブリーな服で女装したおっさん(小林顕作)。
 W浅野に憧れ「あさだりょうこ」と名乗るおっさんが激しく踊るだけという全くためにならない内容に激怒した若手女優は直接あさだの家に乗り込み…

あれ、なんか面白くなりそうな雰囲気ありますね笑

ですが…もの凄くストレートに言うと、正直「全力の悪ふざけ」の域を出ていないように感じました。

いやわかんないですけど。本当は背後に深いメッセージとか風刺が隠されているのかもしれないですけれど。少なくとも私はちょっと受け取れませんでした。

これたぶん劇場で観たら面白かったんじゃないかな。

劇場なら文字通りの「熱」=体温がダイレクトに伝わりますし飛び散る汗も観えます。
でも演者の熱量が伝わりづらい配信ではドタバタ喜劇は難しい。

第1弾でさゆと同日に配信された永島敬三さんの『ときめきラビリンス』がタイプ的にはこれと近い感じだったんですが、やはり私には「あんまり」でした。

しかもこの日の配信は2本立てで1本目が感動系。
その余韻が残っている中で、女装したおっさんのダンスにふてくされた表情のさゆが悪態をつくというのをひたすら見せられてもねえ。

何でも演じられるのは良いことなのか?


さゆが演じたのはずっとふてくされてしかめ面しながら乱暴な言葉を吐くガラの悪いキャラ。恐らく役名もありません(私が聞き逃していなければ)。

「あ゛~!ビールにすりゃよかった」

初っ端からこんな台詞が飛び出します。
過去に演じた役でいえば『あさひなぐ』の将子ちゃんをさらに感じ悪くしたような。

そしてその「感じ悪さ」は最後まで続きました。
この舞台だけ観た人は井上小百合にあまりいい印象持たないだろうなと思うぐらい。
いやそれは演技プランとしては成功なんですが、個人的にはなんか釈然としませんでした。

ファンの贔屓目はもちろんあるでしょう。そりゃ10年も応援してますから笑

でも井上小百合には「ヤな奴」じゃない役を演じてほしい。
それを演じられる幅の広さはあっていいけど。
この日のさゆはきっちり最後までトゲトゲしてイライラしている役を演じ切っていて、それは役者として正しいことだと頭では理解できるんですけど。

なんて言うのか、さゆは仮にヤな奴でも悪人でも「どこか魅力のある人物」を演じる方が上手いと思うんですよ。

もちろん「魅力がない人物」をその通りに演じられる能力も必要でしょうし、何ならそれを器用にこなす役者さんの方が食いっぱぐれはない気がしますが笑

私が思うに、たぶんさゆは純モブキャラに向いていない。
あるいは、純モブキャラとしてだったらさゆを使う意味がない。
いやこれだと語弊がありますし、これでさゆの仕事が減ったら困るので言い換えます。

チョイ役でも、どこか観る人の心にひっかかりのある役柄の方が彼女の個性が活きる。
(この日は二人芝居なので別にモブじゃないんですけど)

それが井上小百合という演者なんだと思います。

ラストに「…いつか見つかるといいな、W浅野の再来が」みたいな歩み寄りというか希望の欠片を残す台詞でもあれば良かったと思うんですけどね。まあそういう甘さを残さないのが恐らく小林さんのスタイルなのでしょう。

あと思ったのが、やっぱりさゆはこれまで見せてきたようにニコニコ笑いながら毒を吐く方が似合っています。

冠番組で真夏さんやろってぃーをディスったりとか、『大人のカフェ』の千秋楽アフタートークでの「3人ともそんなに好きじゃない…」発言(これ好き)とか懐かしいですね笑


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deux補正2
2020年6月に下北沢本多劇場で行なわれた舞台『齷齪とaccept』の配信を観劇しましたのでレポートします。

アーカイブ配信なしのリアルタイム視聴のみ。ビジネス的には明らかにアーカイブありの方が望ましいのにそうしないのは「舞台は一期一会」というこだわりゆえでしょうか。

We are back!!


2020年6月1日より下北沢の本多劇場が再開されました。

小劇場の聖地。
私も舞台を観に行くようになる前からその名前ぐらいは知っていました。

行なわれるのは11人の演者の日替わりによる「一人芝居の無観客生配信」。
そしてその中に「井上小百合」の名前がありました。

役者になりたいのに「君には無理だ」と言われて悔し涙を流した少女が、10年後に小劇場の聖地に、かねてから彼女自身「あそこに立ちたい」と言っていたその場所に立つ。

それだけでも感動的なのに

 演劇の灯を消すな

多くの人のそんな願いを込めてこの状況で行なわれる公演に選ばれた。

こんなシナリオ、誰も想像できないですよね。

「元乃木坂」の集客力を期待して。もちろんそれもあるでしょう。
ただ本多劇場に再び灯がともる日にその場にいることを許された。いやそれどころか請われてその場にいるというのはもうそれだけでさゆ推しとしては感極まりそうです。

これだから井上小百合推しはやめられない笑

演じたのは『齷齪(あくせく)とaccept』。
『じょしらく』の川尻恵太さん脚本(そもそも「DISTANCE」全体の企画も川尻さんです)で、初演は同じく『じょしらく』の『弐』で共演した小山めぐみさん。演出のニシオカ・ト・ニールさんも『じょしらく』で演出助手を務めていた方。

ちゃんと、乃木坂としての彼女の日々とつながっているんです。

かなえたい夢があるのに、それに向かって進んでいる感じが全然なかったアイドルとしての最初の数年間。それでも歯を食いしばって歩き続けた本人と、それを支えた周りの人々へのご褒美のような今回の抜擢。

まじめにやればいいことあるもんだな。

そんな感慨すら覚えます。

Baby Goodbye


そして、舞台に立った井上小百合はいつものように我々を驚かせてくれました。

あらすじを一言でいうと、戦争に行って帰ってこない作家の夫を50年間待ち続ける女性の話。

基本的には主人公の若い時から老婆になるまでを演じるのですが、一人芝居かつセットも最小限で衣装替えもなしという制約の中で、夫の書いた小説や回想シーンの登場人物に至るまで様々なキャラクターを流れるように演じ分けていきます。

『奇跡の人』のヘレン・ケラーとサリヴァン先生の名シーンを毒たっぷりに演じたり、「ヤギのマネ」や「恋に落ちたダンス」が気持ち悪い動きで最高に可愛かったり。
個人的に一番良かったのは『ジャック・ザ・リッパーふざけるな』の歌でのすっとぼけた表情ですね。

前半はコメディエンヌとしてのさゆの魅力が存分に発揮されていました。

やがて後半に差し掛かり物語が徐々に趣を変えてゆくにつれ、私はタイトルの意味が分かったような気がしました。

「齷齪と」=懸命に、「accept」=受け入れる。
「齷齪と」は「悪戦苦闘」も掛けているような気がします。
つまり「受け入れがたいことを懸命に受け入れる」姿を描いているのではないでしょうか。

受け入れがたいこと、それは「あなたの不在」。

想いが強すぎるからこそ、それに50年もかかってしまった。
そんな悲しくて滑稽で愛おしい人間の姿。

辛いからふざける。泣きたいからはしゃぐ。
前半のドタバタな演技が物語の後半に見事に収束していく様は圧巻でした。

そしてラストシーンで表現されていたのはふたつの相反する感情。

ひとりでいることの絶望的な孤独と
ひとりでもひとりじゃないと感じられることの暖かさ。

この両方を自分の中に感じた時、やっと主人公は夫の不在を受け入れることができたように思います。(本当は死んだのは夫じゃなくて主人公だったのかな?と思わせる余韻でしたけど、どうなんでしょう)

上で書いた「悲しくて滑稽で愛おしい人間の姿」。そのすべてを表現した井上小百合。

めちゃめちゃ気合入っててめちゃめちゃ強い思いでこの舞台に臨んでいることが観ている者に伝わる、素晴らしい演技でした。

終わった後の噛みしめるような「楽しかった…」がまた良かったですね。


2020年7月6日に井上小百合公式Youtubeで公開された「【井上小百合】「アイドル卒業後の女優業に密着」でこの公演の一部やリハーサルの模様を観ることができます。

川尻恵太さん、そして新たな所属事務所であるシス・カンパニー代表の北村明子さんのコメントも非常に興味深いのでぜひ一度ご覧になることをお勧めします。



そして「DISTANCE」も第2弾として8月に客席稼働率を下げての有観客+配信という形で開催することが発表され、今回も井上小百合は出演者に名を連ねています。



同じ『齷齪とaccept』なのか他の演目なのかはまだわかりませんが、こちらも非常に楽しみです。


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